第2話 運命の出会い。君が相棒。そして食糧。
広い草原にたたずみあたりを見渡す。月夜のようなあかりと比喩したが、実際に辺りは夜で月夜に照らされていた。
しかし俺の知っている月とは違い、黄色と緑色の月が夜空に二つ浮かんでいた。
(待て、これじゃあさっきのわんこに会えない!)
振り向いてここに出た道を引き返そうとするが出口はなく、ただの岩がそこにあった。他も見るがそれらしき後はなく辺り一帯ただの草原だ。
これはきっとまずい状況だろう。いつの間にか知らない場所来てしまい、さらには持ち物も何もない。このままだと餓死してしまったり何かに襲われて死んでしまう。
(とりあえず水を探すか)
昔見た番組では遭難したり迷ったら水を探せと言っていた。食べなくてもしばらくは生きれるが水はないとすぐに死んでしまうと言っていた。
(そもそも死んでいるから必要なのかもわからないが)
出てきたと思われる岩からまっすぐ草原を歩いていくと遠くに森が見えた。このあたりでは食べ物があるように見えないがあの森の中であればきっと森の恵みぐらいはあるだろう。
そうして歩き続け森の中に入るとすぅっと頬を撫でる冷たい風が通った。なんだか不気味だし今まで明るい場所で生きてきた俺にはなんともいえない不安が募る。
しかし少し歩いていたところでその不安は払拭され、慣れてしまった。確かに不気味ではあるが親の実家に遊びに行った時の田舎特有の暗さになんとなく似ていたからだ。
街灯もなくカエルが鳴いていた田んぼ道を歩いた時は似たようなものだった。
水を探して歩いていると少し遠くの方からぴちゃっと水の音がした。
(お、ついに水か!)
嬉しくなり走り出すと音は次第に近くなり俺の気持ちはどんどん高鳴っていった。
しかし近づいていくとその音は水のような綺麗な「ピチャ」ではなく「びちゃ!」と言った汚い音だと気づいた。
飲み水だと思っていたために期待が外れてショックを受けたために足を少し緩めはぁっと小さく溜息をついた。
だがしばらくすると野生動物などの危険なものではないのかと不安もよぎってきた。
確かに生き物は好きだが自分を餌だと思って襲い掛かるものをかわいいだなんて思うほどそこまで俺の考えは歪んでいない。
足音をできる限り消しながら音の場所へ向かうとそこには小さな紫色の丸い物体がふわふわと浮かんでいた。
(なんだあれは?ボールか?)
しかしよく見てみると紫色のボールの周りには透明な寒天のような膜があることに気づいた。紫色のボールはその膜の真ん中にあり、核のように見えた。
(ファンタジーとかで見るスライムみたいだな。ぷよぷよしていてかわいいな)
ゆっくり近くにより観察してみると、向こうもこっちに気づいたのかびちゃびちゃと跳ねるのをやめ俺を見て(?)きた。
そーっと手を伸ばして触れてみるとツルっとした触感だが、指が沈み込んでいく感触は人をだめにするクッションみたいだ。
しばらくすると俺の指に体を押し付けて手を包んでいった。暖かいゼリーの中に手を突っ込んでいるようで気持ちがいい。
「なんだよ、じゃれてるのか?」
スライムからは返事はないが絡みつくように俺の腕に上ってきた。
そこで俺は着ている服が違っていることに気づいた。死んだときにはスーツを着ていたのだが今は薄緑をしている半袖と半ズボン型のジーパンのような物をはいていた。
(おぉ、なんだか転生ものの定番みたいだな)
感動しながらスライムの触感を楽しんでいるとスライムは体から離れ地面にポトンと落ちた。体をプルプルと震わせながらこちらを見て(?)いる。
「仲間になりたそうにこちろをーってやつかな?なんだかかわいいし俺的にはついてきてほしいんだけど…」
こちらの意思が伝わっているかどうかが分からないため俺は森の奥へと指を向け「付いてくるか?」と呟いた。
するとスライムは一回ポヨンと跳ねると俺の腕へとまとわりついてきた。
「あぁー、かわいいなぁ」
思わず顔がにやけてしまう。なんとも可愛らしい。
俺はスライムを左腕に装備した状態で森の奥へと進みだした。
しかし奥へ進めど川は見えてこず森が深くなる一方だった。
「まずいなー、飲み水を確保しなきゃ俺死んじゃうよ。スラ君どうする?」
俺は左腕についたスライムにスラ君という名前を付け可愛がっていた。スラ君とは会話こそできないが俺の言葉に合わせてプルプルと体を震わせ反応するため可愛らしく愛着がわいてしまったのだ。
するとしばらくしてガサっと茂みから物音がした。
物音と同時に茂みから出てきたのは大きな犬だった。
「ぐるるる…」
威嚇するように鼻筋にシワを寄せ唸り声をあげる大型犬。見た目こそ真っ白なシベリアンハスキーだが大きさは虎ぐらいの大きさがあり、威圧感がすごい。
(あ、食われる?)
一瞬でそんな考えが頭をよぎる。車の前に飛び出す勇気はあったのにこういう時に逃げだす勇気は出てこず、足が震えその場で立ちずさんでしまった。
大きなシベリアンハスキーは唸り声をあげながら俺の傍へ近づくと俺の匂いを嗅ぎ始めた。
まるで品定めをしているかのようで俺は恐怖から小刻みに体を震わせた。
(あぁ、せっかく生き返ったのにもう終わりか。あっけないな)
しかし、俺の腕にまとわりついているスラ君の匂いを嗅いだ瞬間にビクン!と体を震わせると固まってしまった。
「へ?」
間抜けな声を出し犬を観察するとそのままお座りをして俺の事を見つめてきた。
恐る恐る手を伸ばし犬へ触れてみると先ほどまでの威嚇は何だったのかという具合でおとなしく俺の手を受け入れた。
野生化で暮らしているというのにその毛並みはつやつやとしていてなんとも言えない心地よさだった。首から背中、最後に頭を撫でて堪能しているとそのまま横になり服従の姿勢を取った。
「なんだお前可愛いなぁ。お、雌なのか。もしかして子供がいてピリついていただけだったのか?」
子を守る親というのは恐ろしいものだ。それは人間だけではなく動物もみな同じだ。もしかしたらこの子の子供がこの近くにいるのかもしれない。
おなかのわしわしと撫でて至福の時を過ごしていると犬のおなかがぐぅっとなった。
「なんだお前、おなかがすいているのか?」
顔を見ると犬はプイっと目をそらした。少し恥ずかしかったのだろう。
「俺も今飲み水探しているんだけどさ、よかったらついてくるか?」
俺はスラ君がお供としてついてきた時のように話しかけてみると犬はスラ君を一度見た後にわんっと元気良く吠えて尻尾を振った。
「よし、なら名前を付けてあげよう。君の名前は今日からアリスだ。よろしくな」
「わん?」
不思議そうに俺の顔を見て鳴くアリス。少しはこれで寂しい夜もまぎれるかなと感じた。
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深い森の中私はいつものようにこの森の支配者として弱者を狩り、食していた。
この森の中では私より強い存在などおらず、私に会ってしまったが最後。すべての生き物はその命を差し出し食われてしまうのが定めであった。
自分の透明な体の中に相手の体を取り込みすぐさま溶かし、吸収していく。水のようなこの体では相手の牙も爪も通用しない。
相手が魔法で攻撃してきたとしても魔法ごと食べてしまえばいいし、強力な酸で対抗することもできる。
しかしそんな最強の存在として生まれた自分にもどうしても逃げられぬ運命がついて回っている。
終わることのない空腹感だ。
流動しているこの体には栄養をためておける器官が存在せず、常に栄養不足に陥っている。そのため生きるために目に映る生き物はすべて捕食してわずかな時間だけでも空腹を紛らわしている。
そうして今も一匹の魔物を消化し終えてしまった。
すぐに腹は減り、次の獲物を探す。
すると森の陰から音がし、私はそちらを振り向いた。するとそこには少し大きなサル、もとい人間がいた。
(しめた、今日はごちそうだ)
人間は暴れてこちらを攻撃してくる少し面倒な存在ではあるが味はとてもおいしく、出会ったら三日はかけて食べると決めている。
人間を見ると雄のようだ。引き締まった体をしており、肉厚でうまそうだ。青く染まっている髪がなんとなく夜空に合うなんて考えていると人間は私に近づき手を伸ばしてきた。
「なんだ?自分から食われに来るなんてずいぶん潔いではないか?」
人間に言葉をかけてみたが通じるわけもなく、そのまま私の体に触れた。
私はそれに抵抗することなく体に取り込むと絡みついた。
「ふふっいただきます」
そういい人間の体を食し始めた。
「………」
食し始めたのだが、人間は痛がるそぶりを見せず、何なら笑顔を見せてきた。
「なんだよ、じゃれてるのか?」
そんなことを言う始末で少し向きになり腕を登り始めより攻撃の手を加える。
しかしそんなことは関係ないといった具合に男はぼーっと自分の体を見ていて、私の事など気にもしていないようだった。
先ほどから空腹感がましになっていることから食せてはいるはずなのに痛がるそぶりを見せない人間。
私は感動を覚えた。
「いくら食べてもなくならず、痛がりもせず暴れもしない。何なら敵意も向けてこないこんな素晴らしいものがあるだなんて!」
そう叫ぶと思わず私は地面に落ちてしまった。
そうしてすぐに飢餓感に襲われた。
しかし、そんなことなどどうでもよかった。
「頼む!私を連れて行ってくれ!」
初めて出会った理想の食材、ここで手放すことなど考えられないと思った。ここで手放して、いつもの飢餓感に襲われる毎日はもう嫌だ。
しかし相手は人間、話など通用しないかと半ばあきらめていた時だった。
「仲間になりたそうにこちろをーってやつかな?なんだかかわいいし俺的にはついてきてほしいんだけど…」
そんなことをつぶやくと人間はつぶやいた。
「え、言葉が…」
通じたのか?いやそんな馬鹿なはずはあるまい。われら魔物の言葉など人間に通じるわけがない。
しかし男は腕を持ち上げると、運命の言葉を持ち掛けてきた。
「付いてくるか?」
「………!」
喜びのあまり言葉が出ず、一回飛び跳ねるとその持ち上げられた腕に飛びついた。すると空腹感は満たされ、同時に幸せが全身を巡った。
(あぁ、この者を守ろう。そうすればこの幸せがずっと続く)
そう私は決心した。この森に生まれ、今まで蹂躙してきた私が生まれて初めて何かを守りたいと感じた。
「あぁー、かわいいなぁ」
不意にそんな声が聞こえ、私は思わずはっとする。人間の顔を見るとにこにこと笑っており、その眼には私が移っていた。
「なっ!なっ!何を言っているんだこの人間は!」
戸惑いながらも叫ぶが人間には伝わっていないようだ。
少し熱くなった体を人間の腕で覚まし食していると「あ、そうだ」と男は言った。
「なんか愛着わいたし名前をつけよう。スラ君でどうかな?」
「な!私は女だ!」
「おぉ!そんなに喜ぶなんてよっぽどうれしいのか!よろしくな、スラ君!」
コミュニケーションはとれるようにしたいな。
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