第7話 魔物たちの会議。かつての繁栄

仲間が加わった!なんて言ったのはいいが実際は問題が増えただけということが分かった。




ゴーレムだけでも百二十体いるというのに今回はオークとミノタウロスを集めて百人。圧倒的に家が足りないのだ。




オークたちが二足歩行ではなく普通の豚や牛みたいに四足歩行であれば家ではなく小屋でいいかと思うが今回は違う。




ゴーレム達に「俺の家ではなく彼らの家を先に」と伝えるとゴーレム達は胸に手を当て頷いてくれた。その姿を見て安心してすでに定位置である岩へ戻ったがアリスはいなくなっていた。どこへ行ったのかと探すとどうやら先頭に立たされていたオークやミノタウロスたちの元へ行っていたようだ。二匹の周りをぐるぐる回りながら匂いを嗅いでいるのを見るとなんとなく牧羊犬を思い出すな。




そんなわけでまた暇になってしまった。今の状況を考えれば暇であることは問題に感じるが実際やれることが無いのだ。手伝おうとすればやめてくれと言わんばかりに追い返されるし俺が動くとリャンたちが護衛のようについて来てなんとも居心地が悪くなる。何をしろというのだ。




仕方なく今現状必要なものを考えたが数は非常に多くなった。食料や水は確保したし、住むところは今ゴーレムに作ってもらっている。だが人間にとって必要な塩であったり俺の娯楽である風呂がないのだ。正確に言えばトイレや布団、まくらなど細かい物はいくつでもあるが今現状その二つは何とかしたい。




塩に関してはこのあたりでは不可能なのではないかと思う。海もなければ岩塩的なものもない、生成方法や採取方法が断たれているのだ。




なんとかしたいt頃ではあるが現状俺の力ではどうしようもない所なので諦めるしかない。どこかへ探しに行くか人を見つけて交易するしかないだろう。




風呂に関しては火さえ手に入れれば何とかなるだろう。ただし石鹸や体を洗う道具なんかは欲しいがそれもどこかで交易をしなければならないだろう。




しかし現状俺の中では人や文明があることが前提となっているのだがこの世界に俺以外の人は住んでいるのだろうか?文明の名残なんかは見つけたが人の気配や人が立ち入っている気配が全くない。昔は人が住んでいたが今は滅びてしまったなんて世界であればたまったものではない。




アニメや漫画では地球の知識を使って生活を豊かにしたり美味しい食事を作ったりなんてあるが俺は一般人だ。それも現代文明に染まりきっている情けないおっさんだ。自然界や文明が発達していない場所では検索ツールがない限り役に立たない情けない一般人なのだ。




もしもこの世界に文明や人がいなければ俺は野生人として生きていくしか道はないのだ。それは地球の現代文明を知っている俺にとっては相当なストレスだ。そんなのは勘弁してもらいたい。




今後の生活に関しての不安に押しつぶされそうになり頭を抱える。だがそんな俺の頭を刺激する感触があり顔をあげるとそこにはカイトがいた。俺の顔を見て「ぶるるん!」となくと尻尾を振りしゃがんできた。まるで乗ってくれと言わんばかりの行動に俺は少し微笑むとその行動に甘えることにした。




三回目ともなれば少しは安定して乗りこなすことが可能にはなったがいまだに早く動かれるのは少し怖い。




しかしそんな気分転換で乗ったカイトの背だったが俺はある妙案を思いついた。




「あー、そうか。カイトの背中に乗って辺りを散策すればいいのか!」




すっかり忘れていたが今の俺には移動手段があるのだ。それもそれりの速さで動け、さらには頼もしい仲間であるカイトがいる。このまま様々なところに向かい人の痕跡を探し集落を探す。それを今後の目標とすることにした。




このまま集落を探す旅に出てもいいが、そうするとゴーレムやオークたちをここに置いてきぼりにしなければならない。せっかくこの世界でできた初めての仲間なのに無責任に見放すなんてことはできない。というより面倒を見るなら最後までというのが俺の信念だ。




「…それなら最初からアリスとカイトとスラ君だけ連れて人間を探したらよかったのでは?」




オークとミノタウロス、ゴーレムに関しては完全に人間界に連れて行ったら問題になるが先に挙げた三匹であればさほど問題にならなかったかもしれない。




そう考えると俺が「可愛いから」「なんとなく」で助けたことにより自分の首を絞めたことになるような気がする。




「…暗くなってきたし帰ろうか」




日の沈み方的にもう夕方だ。そろそろ帰って様子を見よう。




長い散歩道を俺は気が重くなりながら帰宅することにした。




++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++




日も沈み世界が星の明かりを頼りに動き出すころあたしの飼い主は少量の果物を口にした後眠りについた。一晩中歩き回っていたのだ、疲れが出てしまっても仕方がない。さらには大量の魔力を使いゴーレム達を復活させたのだ。




あたしたち魔物組はそれぞれ各代表が男を囲むように座っていた。頭の位置から左回りにカイト、ゴーレム、オーク、ミノタウロス、そして左腕にあたしといった並びだ。




「まったく、飽きさせない男だよ」




「今日一日だけでも相当ありえないことが目の前で起きたしね。付き合っているこっちも疲れたよ」




あたしの言葉に賛同したのはアリスだ。彼女は今日一日食べ物の選定や生意気な魔物へ睨みを利かせたりと大忙しだった。今日一番精神的に疲れたといっても過言ではないだろう。




「私たちとしては本日はめでたい日でありますし宴をしたいのですが、あいにく我が主もお疲れのようですし本日はご遠慮した方がよさそうですね。酒や食べ物の提供は施設が整わないとできないですし」




そう返したのはゴーレムの代表であるイーサンである。彼は今日一日他のゴーレムへ指示を出していて疲れているはずなのにそんな元気の有り余る回答をしてきた。




「あんたたちはよく疲れないね。今日目覚めたばかりだし、起きて早々家なんか作らされて疲れていないのかい?」




「お心遣いありがとうございます。ですが私たちは大丈夫です。魔力も半年分以上充電していただきましたし、なによりも人へ使えるのが最高の喜びですので少しも苦ではありません」




顔がないためイーサンの表情はわからないが満面の笑みであると感じる。何かに仕えることに喜びを感じるのはあたしにはわからないが彼らには嬉しいようだ。まだ働いているゴーレムや休憩をしながら談笑をしている他のゴーレムからも同じような雰囲気を感じ取れる。




しかしそんなゴーレムの気持ちも知らず手伝おうとこの男が動いた時はすごい不機嫌になりながら「我々がやりますから。我が主は動かないでください」と威圧していた時は面白かった。男は男で「俺だって役に立てるのに…」なんて呟いてゴーレムは「我が主に働かせるなど言語道断であり、そもそも我々は人間に仕えることが…」なんて食い違っていたのも面白かった。




「だが我が君の計画は順調であるな。今日だけでこれだけ数多くの魔物を集めたのだから」




そう話を切り出したのはカイトだ。彼は朝出会ったころ「我への供物か!」なんて言っていたのに今では男にべったりである。寝ている男の頭の近くに座り傍から離れようとしない。




「計画?このアホ面の男が何か計画しているとでも?」




近くに落ちていた枝を枕にして寝息を立てている男を見てあたしはそう返した。全く警戒心がなく、熟睡しているようで口の端からはよだれが垂れている。




「ふっ、スライムでも分からぬか。忠誠心が低いと見えるな」




真っ先に喧嘩を売っていったもののセリフとは思えない。どの口でとはこのことだろう。しかしあたしとアリスの冷たい目線など関係ないようにカイトは自慢げに話を続ける。




「これだけの魔物を従えようと動いているのだ、何か深い考えがあるとわかろう。今日も我が背に乗せて歩いていると『それなら最初からアリスとカイトとスラ君だけ連れて人間を探したらよかったのでは?』とおっしゃっていた。つまりは我らを従えて人間に何かをしようとしていたのだろう」




カイトは意地悪く笑って見せる。だがゴーレムやオーク、ミノタウロスを使わず最高戦力である三人を連れて人間を探すとなるとあまり穏やかではない話題が頭に浮かぶ。




「…人間界への侵略か?」




口火を切ったのはアリスだ。その瞬間全員に緊張が走る。




「ふ、はみ出し者ではあるがその読みに関しては称賛を送ろう」




「はみ出し者は余計だ駄馬が」




「その駄犬が言うように恐らく我らが主は人間界の侵略やそれに近い大きな計画があるのかもしれぬ。つまりは人数を集めるのは兵隊集めの可能性もある」




「戦力の拡大ねぇ」




そんなことをして何をしたいのかがあたしにはさっぱりわからなかったがゴーレムはハッと何かを思いついた顔をした。




「魔王領の復活?」




深刻そうな顔でそうつぶやいた。




「ん?なんだ魔王領って」




アリスが間抜けな声で質問をする。あたしも正直長く生きてはいるがほとんどが空腹の記憶しかないため歴史の話などは備わっていおらず分からない。




「貴様はなんで覚えて…。あぁ、貴様は知らずとも仕方がないか。魔王領というのはかつてこの地に栄えていた魔族の国の事だ。つまりはゴーレム達の故郷の事だ」




初めて知る話が飛び出した。というよりもカイトはこの事実を知っていたのか。




「我が主が…。そんな…」




信じられないような顔で男を見つめるゴーレム。そんなことは知らずといった様子で『ゲンタ君…』とにやけながらつぶやく男。誰だゲンタって。




「我が君は何かしらの理由があり人間界を抜け出したお方。さらにはこの危険な森へわざわざ侵入してくるなど何かしらの目的があると考えてもおかしくなかろう?」




カイトの言う通りこの森は少し危険な地域であるらしい。




人間が何かこの森の名前を言っていた気がするがあたしの記憶には残っていない。だがこの森の魔物の強さが強いということを言っていたのは覚えている。




あたしの記憶上ではあたしより強い生き物は見たことが無いがここにいるメンバーを見れば危険なのだろうとわかる。カイトやアリスは空腹で苦しんでいたあたしでも勝てるが喧嘩を売らなかった二人だ。さらにはこのゴーレム集団には一対一ならまだしも集団では少し苦戦すると思う。




オークとミノタウロスは餌なので特に覚えはないが。




「…もし我が主の目的が魔王領の復活が目的であるなら」




「貴様にも悪い話ではなかろう?」




カイトの言葉に無言で頷くゴーレム。続けて「私たちにとってこれ以上の悲願はありません」といった。




「あの日滅びゆく魔王領と魔王様を私は近くで見ていました。あれほど悲しい思いをしたことは他にありません」




どこか遠い目をしているように見えるゴーレム。かつての繁栄を思い出しているのだろう。握りしめる手は少し震えていた。




「もしカイト様のお考えが我が君の考えと同じであれば私たちはさらなる忠誠を誓わねばなりません」




「おいおい、それは主に聞かなきゃわかんねぇだろ?こんな駄馬の言うことを信じてもいいのか?」




「ふんっ、そのうち分かるだろうよ。駄犬はその時吠え面をかけばよい」




「なんだと?」




一色触発の空気の中、ゴーレムだけは「我が主…」と羨望の目で見つめていた。各々が考えも行動も自由すぎて何も言えない。




「あー、ミノタウロス君とオーク君はもう帰っていいよ。明日この男から名前貰うまでストーカーしといてね」




「あ、はい…」




「かしこまりました」




そういい二人は申し訳なさそうに頭を下げながら立ち上がってそれぞれの部族の元へと帰っていった。




急にこの男の傘下に入れられ挙句の果てにこんな実にならない会議に参加させられなんともこの二人はかわいそうだなと思う。本当に申し訳がない。というか全く話してなかったぞ。




「魔王領復活ね…」




この男がそんなことを考えているかどうかは別として、少しはその計画が面白そうだなと感じる。そして今まで食べ続けたつまらない人生が少しは楽しくなることを祈ろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る