第8話 森の開拓。子供たちの姿
朝日によって体を刺激された俺は目が覚めた。しかし目が覚めたことを後悔するほど体は痛みに覆われていて起き上がるのが大変だった。恐らくは地面で寝たせいだろう、この体が若返っているとしても固い地面と木の枕では体が持たない。
なんとか体を起こして辺りを見渡す。俺の周りにはアリスやカイトもおり、スラ君は左腕から胸の上へ移動していた。
アリスやカイトはまだ寝ているがスラ君は俺と同じで目が覚めたようでぽよぽよと跳ねている。
「おはようスラ君、ちゃんと寝れた?」
返事はないが小さく跳ねるスラ君が可愛らしくスラ君を撫でる。スラ君もお返しといわんばかりに俺の顔へ体を伸ばし、顔を拭くように撫でてくれた。
朝からなんだか幸せな気分になりながら家を作成していた場所へ向かう。すでにゴーレムは起きていて家造りを進めていた。
いや、終わらせていた。
「あいつら寝てないのか…?」
何十棟という平屋がズラッと並んでおり、それが綺麗に五列分建っている。雰囲気で言えば昔時代劇で見た平屋に見える。
質素といえば質素ではあるがそれでも一晩で家を建て切ったゴーレム達はすごいな。二階建ての家なんかも建てられるのだろうか?そうすれば昔俺が考えていた夢のマイホームが作れてしまうかもしれない。
夢のマイホームといってもキッチンとお風呂が少し立派な普通の一軒家ではあるのだが、昔俺はこの夢を諦めたのだ。理由としては一人で暮らすのには広すぎて持て余してしまうとなったからだ。
仕事は最悪転職してもいいと考えていたため地方の一軒家から今住んでいるところの一軒家まで探し出し、気になった所を見学しに行ったことがある。だが、そのたびに「本日奥様は?」「ご一緒に住むのはご両親ですか?」と聞かれ「一人の予定です」というと変な目で見られた。いいじゃないか一人だって。
しかし犬や猫を飼って、さらには爬虫類、虫なんかも飼育しようと考えていた俺にとっての理想はそれなりに広い一軒家が必要だったため見学していた家はどれも子供がいる夫婦や二世帯住宅にをするのにお勧めの物件ばかりだったのだ。がらんとした広い家を見ると孤独が押し寄せてきて買う気がうせてしまった。
というか金も足りなかったしね。予算オーバーだった。
そんな昔の事を思い出しているとイーサンが俺の元へやってきた。手招きをしているのでどうやらついて来てほしいようだ。
イーサンに連れられて平屋通りを歩きながら中をのぞき込んだりするとまさに昔の長屋だった。小さな竈があり、水を溜める小さな甕があるキッチン兼土間。その先には小上がりの少し広いリビング兼部屋があった。畳じゃないところ以外は完ぺきに江戸時代を思い出す長屋の作りだ。
ここにはどうもミノタウロスやオーク達が住むらしく中へ食べ物や水を運び入れていた。いつかはもう少しいい家に作り替えて住まわせてあげたいな。
そうして奥へ進んでいくと長屋とは違う立派な作りの建物が見えてきた。建物の中は大きな樽が作られており、樽の中へゴーレム達がブドウのような果物を次々に入れていた。「なにをしているんだ?」と聞くとイーサンは何かを飲むしぐさをした。恐らくは飲み物を作っているのだろう。だがそれでもすごい量を作ってるんじゃないのか?
他にも地下を掘って作った食料の保存庫や井戸、広場や畑なんかも作っていた。
「待て待て待て、なんで一晩でこんなに発展してるんだよ!」
通常であれば早くて半年、長くて一年かけてゆっくりここまで発展していくものだろう。なのに俺が寝ていた数時間の間に見たことのないほど景色が変わっている。
ゴーレムは誇らしいかのように胸をドンと叩いて俺の事を見てくる。正直ここまでやってもらうと申し訳なくなる。
俺はイーサンへ休んでいいんだぞ?といったがイーサンは首を横へ振って拒否してきた。仕方がないため何かしてほしいことはないかと聞くと少し考える仕草をしたのちに俺の手を取って胸の玉へとあてた。
少しそうしたかと思うと手を離しガッツポーズをしてきた。なんだかよくわからないが満足したらしい。
しかしイーサンの後ろにはリャンやサン、スーまでいた。どうやら順番待ちをしているようで俺はそれぞれ同じように玉へ手を当てというのを繰り返した。
スーが終わって退いたかと思うとその後ろにはオメガとアルファがいた。さらには他のゴーレム達がみんな並んでいる。
「あー、まぁ仕方ないか」
こうして俺はまた全員の玉に触れる作業をすると少し時間がたっていた。アリスやカイトたちも起きたようで俺の近くへと走ってきた。そして「これは一体?」といった顔で建物を眺める。知らずに見ればそりゃあ驚くよね。
こうしてメンバーを増やして歩いていると昨日縄で縛られていたオークとミノタウロスがヘコヘコとしながら俺へと近づいてきた。昨日オメガたちにやられた傷がまだ痛々しいな。
何を話しているかはわからないがゴーレムと何やら話した後俺へと頭を下げまたどこかへ行った。
なんとなく目で追うと森の中へ入っていってしまったので「どこかへ行くのか?」とゴーレムへ聞くと無言で頷いてきた。
そうしてしばらく歩いていると少し大きめの家が見えてきた。イーサンが両手でオーバーに紹介してきた家は二階建てで調理場の数は変わらないが部屋の数が長屋8棟分ぐらいの大きさだった。
中も他の長屋とは違いとても広く、さらには細かい部分の装飾などが凝っていてなんだか金持ちの商家の家といった感じだった。
「へー、立派な建物だな。ここならもし来客があっても対応できそうだな!」
家具など細かい物をそろえれば急な来賓のお客、つまりは人間が来た時も招けるいい宿泊場所へなる。ゴーレムが自慢したくなるのもわかる。だが来賓とかに使うのはいいが普段使いするには少し派手で疲れそうだな。
「これならお客さんを泊めるのにも安心だよ。すごいなゴーレムは!」
俺が褒めるとゴーレムはキョトンとした顔をしてきた。俺が「普通の宿泊施設もついでに作れるかな?」というと」何やら落ち込んでいたが何か間違っていたのだろうか?
そうして街の散策を続けると一軒の小さな家を見つけた。これに関しては長屋ではなく家という呼び方がしっくりくる作りだった。広さは長屋より少し小さめだがこっちは海外チックな雰囲気だ。昔見たアニメの主人公の実家がこんな感じだったのも思い出す。
「おぉ、ここいいな!」
他と雰囲気は違うがなんだか落ち着く空間だ。現代を生きていた俺にはこのぐらいがちょうどいい落ち着く狭さだ。
「なぁ、ここって空いているか?」
俺の言葉にイーサンは頷く。空き家であれば俺はここに住みたいな。
入り口で入れずに困っているカイト以外は問題が無いし、家具さえ何とかなれば快適に住めそうだ。
「イーサン、俺ここに住んでもいいかな?気に入ったんだけど」
俺の言葉になぜかのけぞるイーサン。オロオロとアリスとカイトを見るが二匹とも首を振るだけであった。イーサンもなぜか肩を落としながら手のひらを向けてきた。どうやらここに住んでもいようだ。
念願の一軒家を手に入れ浮かれ気分になっているとなんだか外が騒がしくなった。
何かあったのかと思い出ていくとさっき出て行ったオークが子供のオークを連れてきたのだ。どうやら彼らは家族を迎えに行っていたらしい。というかオメガたちはなんてことをしてくれていたんだ。
子供たちを抱きかかえる親や泣いている子供を見ると余計に罪悪感がわいてきた。俺はできる限りのことをしようと思いイーサンへオークとミノタウロスの身の回りの世話を第一優先にするよう伝えた。
イーサンがどんどん肩を落としているような気がするが気のせいだろうか。
しかしそこで俺は一匹のオークの子供に目が留まった。オークの子供は何か黒い物を抱きかかえており、それがもそもそと動いたのだ。
俺は子供へ近寄ると「こんにちは」と声をかけた。子供のオークは茶色の髪が肩までかかっており、びくっとした仕草や服を見るとどうやら女の子のようだ。
「何を持っているの?」
俺が聞くと子供のオークは親をチラッと見ると親も頷いて娘の背中を押した。娘が伸ばした手に持っていたものは黒いふわふわとした毛の生えている生き物だった。だが俺はこのふわふわしたものに見覚えがあった。
「これ…蜘蛛か?」
そう、かなり大きいサイズの蜘蛛だった。イメージで言うとタランチュラを大きくしたみたいな見た目だ。
蜘蛛は足をわしゃわしゃを動かしながら複眼で俺の事を見てくる。タランチュラよりも二倍は大きいこの蜘蛛は最初こそびっくりしたがふわふわとした毛が可愛らしくすごく好印象だった。
「ペットなのかな?」
そう聞くと女の子は首を横へ振った。すると蜘蛛を地面に置きお尻へ指を付けると糸を伸ばし始めた。そうして伸びた糸をくるくると指に巻き取り俺へ差し出だしてきた。
お礼を言いながら糸を受け取ると毛糸のような糸だった。粘着性はなく、ふわふわとした触感。まさに俺の知っている毛糸だった。ただ引っ張っても千切れることもなく、まるで縄のようでもあった。
どうやらこの蜘蛛はオーク達が飼っている蚕のようなものらしい。この糸を使って服や布を作っているのか。
「へー、すごい蜘蛛だな。大切にしなきゃね」
そう女の子へ言うと女の子はニコッと笑い喜んで蜘蛛を抱きしめて親の元へ走っていった。
「しかしこの森にはいろんな生き物が住んでいるんだな。他にはどんな生き物がいるんだろう?」
俺が首をかしげてまだ見ぬ生き物へ思いをはせているとオメガとアルファがこっちへ近づいてきた。
俺が二人に「どうしたの?」と聞くと二人はぐっと指を立てると森の中へ消えていった。おいまさかあの2人…。
「ちょ、カイト!あの2人について行ってくれ!」
あの2人は前科がある。もし今回のように無理やり連れてきたり相手に怪我をさせたりしたら溜まったものじゃない。カイトは賢いしなにかあっても大丈夫だろうと考えた。
カイトは「ヒヒン!」とおたけぶと二人の元へ近寄っていく。
しかしなぜか二人ともカイトにまたがってより速いスピードで駆けて行った。
「え、大丈夫だよね?」
俺は不安を覚えてスラ君を見る。しかしスラ君は「やれやれ」といった雰囲気で俺を見るだけだった。アリスも同じだ。
この後俺は帰ってきたカイトたちによりより頭を悩ませることになった。
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