第13話 子供の遊び。生活の一部。童心にかえる。
昨晩はすごく楽しい時間だったなと思いを馳せる。もはや何でもありのイーサン達が自然の法則を無視して作り出したワインにより会場は盛り上がった。
猫と犬の獣人達が肩を組んで飲んでいるのを見て癒し系動画に出てくる犬猫動画を思い出した。
そんな楽しかった昨夜の事を思い出しながら外へ出ると朝日がまぶしく目をすぼめた。そうして再び目が慣れた時に飛び込んできたのは意外な人物たちだった。
「「「ゲッゲッゲッゲ」」」
ゴブリン三人で丸太を担いで自分たちの住居へ運んでいたのである。
その光景を見て俺は昔何かで見た小人の姿を思い出した。あんな禍々しい声はしていなかったけど。
だがしかし、そんな彼らにも意外な面があったことを機能の宴会で知ったのだ。意外にもにもゴブリンは物まねが得意だったのだ。物まねと言っても声真似や顔真似ではなく相手の行動を真似することにたけていたのだ。
昨日の宴会では犬や猫の獣人達が一発芸としてお互いに大道芸や皿回しをしていたのだがゴブリンはその動きを真似して見せたのだ。最初は見よう見まねでやっていたのが三回目にはほぼ完ぺきに真似をしていたのである。
もしかするとゴブリンにはそれなりの知恵もあるのかもしれない。
しかもこうして眺めていると彼らはきちんとした服を着て、靴まで履いている。アニメや映画なんかでは腰布一枚でほぼ半裸。さらには汚らしく知性のかけらもないイメージだったがそうでもないようだ。
というより第一印象が初めてアイアイを見た時並みの衝撃すぎてちゃんと見ていなかった。こうして丸太を運んでいる姿を眺めていると意外にも愛嬌があるように感じる。
「ゲっゲゲっゲゲゲ!!!」
「…まぁそのうちあの声にも慣れるさ」
まだ少し怖いが、見た目で好き嫌いしていては動物好きとは言えないしね。
俺は丸太を担いで住居へと向かうゴブリンについていき彼らが何をするのかを観察することにした。
ただただゴブリンについていくだけだったがそれでも機嫌よく彼らが「ゲッゲッゲ」と口ずさむことによりなんとなく楽しい気分になっていた。
そうして彼らが居住区につくと一際大きな小屋へと運び込んだ。どうやら工房のようで中では木槌の音がこんこんと響き渡っていた。
中を見てみると先ほどの三匹が丸太を降ろして他のゴブリンの前に置いていた。そうして目の前に丸太を置かれたゴブリンは頭の上に片手を掲げたかと思うと「ゲッ!」という掛け声とともに手を振り下ろした。
すると先ほどまで円状になっていた丸太は均一に整えられた板へと姿を変えた。
「魔法か…」
ここでの加工にはどうやら魔法を使っているらしい。他の場所でも木の乾燥や好きな大きさへと切っており、それをくっつけるのにだけ木槌を使っていた。
しかし俺はそこで一つ考えが浮かんだのでゴブリン代表であるラウド君を探しに行くことにした。ラウド君はすぐ近くで他のゴブリンとゴーレムと話をしていたのですぐに見つかった。
俺が「おーい」と手を振ってラウド君を呼ぶとラウド君はこちらを見た。そうしてゴーレム達に頭を下げると俺へと近づいて「ゲゲ?」と首をかしげてきた。
「一つ聞きたいんだけどさ、服って作れるかな?
俺がそう聞くとラウド君は首を縦に振った。そこで俺は獣人の人たちから布をもらってゴーレムたちの服を作ってほしいと頼むとラウド君は胸を叩いて「ゲッ!」と快く引き受けてくれた。
こうしてゴーレム達への服の約束ははたせそうだ。細かいことはイーサンと決めてくれというと俺は獣人地区へと歩き出した。
彼らの居住区へ着くとみんな活動をしていて布を魔法を使って織っていたり、魚が入った桶なんかを魔法で浮かべて運んでいたりした。
今まで気が付かなかったがごく当たり前に魔法が生活の一部になっているようで、俺は何となく違和感を感じながらその光景を何がめていた。
道の脇へとよけてぼーっと立っていると俺に気づいた獣人達が手を振ったり頭を下げたりと挨拶をしてくれたので俺も手をあげて返していた。
そんなことをしていると着物を着たマルチーズのような見た目をした女の子の獣人が俺のズボンを引っ張ってきた。なんだか指をさしてついて来てと言わんばかりの行動についていくとそこには獣人の子供たちが地面に書かれた円を囲むように集まっていた。
近くまでよるとみんなが挨拶してきたので俺も手をあげて反応する。そうすると獣人の子供たちは俺の元へ走ってくると俺のズボンを掴んだり手を伸ばしてきたりとしながらくっついてきた。犬カフェに行って犬に挙げる用のお菓子を持った時のような反応に俺はすっかりデレデレになっていた。
みんなの頭を撫でながら「何をしていたの?」と聞くと子供たちは俺を引っ張って円へと連れて行ってくれた。
そうして円の近くによると円の淵には八つほどのの石が置いてあることに気づいた。そして子供たちはその石の前へ立つと胸の前に握りしめた手を持っていった。そうして猫の獣人の男の子が「にゃっ!」と叫んだのを皮切りにそれぞれが叫びながら手を前へと突き出した。
そうして空中へと勢いよく上がる石だったが一メートルほどの高さでぶつかり合った。石ははじけ飛んだが一つの石だけは空中に残っのを見た時にビーグルの顔をした犬の男の子が喜んでいた。
どうやら魔法を使って行う子供たちの遊びらしく、次々に勝負は行われていく。見ている限りビーグルの男の子が強いようだが、時点でアメリカンショートヘアーの女の子だが、それぞれがいい勝負をしている。
男女関係なく、ただ単純になにか勝負を決める決め手があるのだろう。俺はその遊びを眺めていたのだがマルチーズの獣人の子が俺のズボンを引っ張って石を指さしてきた。どうやらやれと言っているようだ。
俺はやんわりと断ったが他の獣人の子に背中を押され石の前に立たされた。
だが正直やってみたいという気持ちはあったのだ。もしこの世界では当たり前に魔法が使えるのだとしたら俺も使える可能性はある。もしそうであればどこかで俺も魔法を使えるかもしれないと思っていたのだ。
俺は期待半分、不安半分で石を見つめると他の獣人の子たちの真似をして胸の前に握りしめた手を持ってくると目を閉じた。
(これで後は掛け声をかければいいんだよな?)
静寂の中俺は心を静め合図の掛け声を待つと、三秒ほどたったころに「にゃ!」と聞こえた。
「は!」
俺は目を開け叫んだ。しかし残念なことに石は浮き上がるどころか動きもしなかった。
空中では他の石たちが浮かんでぶつかっていたが、アメショの女の子の勝利で終わっていた。
「はぁ、やっぱり無理か…」
なんとなくわかっていたが実際にこの光景を見ると少し凹む。どうにか使える方法はないのだろうか。
俺が落ち込んでいると後ろからポンポンと肩を叩かれたので振り向くとそこには赤い布を頭に巻いていたイーサンの姿があった。
イーサンは首をかしげて「何をしているのですか?」といった顔で見た来たので俺は今あったことを話した。
「ってなわけなんだよ。魔法の使い方が分からなくてな」
俺はそう言いながら獣人の子供達がやっていたのと同じ動作をとった。だがやはり石が動くことはなかった。
そんな俺を見た後にイーサンは顎に手を当て考えるようなそぶりをして、ポンッと手を叩いた。そして自分の胸を叩くと俺の手を取り反対側を指さした。
「お、なんだ、イーサン魔法を教えてくれるのか?」
俺がそう聞くとイーサンは大きく首を上下させて肯定してきた。
「やった!」
ここにきてまさかの回答が得られた。まさに棚からぼたもちといった感じである。俺は喜んでついていくことにした。
そうしてイーサンに手を引かれ歩いていると遠くから「ワンっ!」という声が聞こえると土煙をあげながらアリスが近づいてきた。
アリスは昨日と同じように俺へととびかかると俺を押し倒し顔をべろべろと嘗め回し始めた。
「こらアリスやめなさい」
そういい俺はアリスをやんわり注意しながら体をわしゃわしゃと撫でた。とても可愛らしいし愛くるしいが、もしこれを他の子供たちにやられたら危ないからそこには注意を払わなければならないな。
そうしてアリスを上からどかすと遠くからカイトやリャン達も来た。まさに全員集合といったように大所帯となった。
俺はみんなに「ついてくるか?」と聞くと全員頷いたため、俺の魔法特訓に付き合ってもらうことにした。
しかしこれで魔法が使えるようになるかもしれないと考えると俺の気持ち的には冒険に出かける主人公のようにはやっていた。
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