第14話  かつての繁栄。受け継がれる結果。

大所帯となった俺の魔法を使ってみよう教室は森の中へと足を踏み入れていた。




理由は分からないが何かしらの意味があっての事なのだろう。俺はおとなしくイーサンの後を追いかけていた。




アリスは俺の右側ををぴったりとくっついて歩いておりとても可愛らしい。俺が頭を撫でると顔の向きは変えずに尻尾をパタパタと動かし喜びを表現していた。




しかしそんな光景に嫉妬したのか反対側からカイトが俺へと頭をぶつけてきた。カイトを見ると大きな目で俺を俺を見つめ、大きく鼻息を吹いていた。仕方なくカイトの顔に手を当て撫でてやると俺の手に顔をこすりつけてきた。




そんな幸せ空間を味わっているとイーサンが足を止めた。俺達もつられて足を止めるがイーサンはきょろきょろと辺りを見渡すと俺に両の掌を向け待つように指示してきた。




そんなイーサンに連れられリャンやオメガたちも辺りに転がっている石をどかし始めた。




俺は見ているだけでは暇なため近くにある岩へ腰かけ辺りを見渡した。この場所は町から歩いて三十分ほどの場所だが未だに足を踏み入れたことのない未知の場所であった。




右を見ても左を見ても苔むした岩しかないこの場所で俺はただボーっとイーサン達を眺めていた。




ここは木が生い茂った他の場所とは違い、少し開けており日差しが気持ちいい。岩が散乱している事もあってか他の場所よりも木が少ないためこの暖かな日差しを届けてくれるのだろう。せっかくならばと俺はこの日差しを堪能した。




目を閉じて体全体にかかる日差しを感じる。社会人時代も営業に行った時、うまくいかず罵られた時はこうして公園のベンチに座って日の光を浴びてリラックスしていたことを思い出す。だがここは高いビルに囲まれた公園とは違い緑が多いせいかなんだか呼吸が深くできている気がした。




呼吸が深く、というのは比喩表現だがぬへ到達する酸素の量が多くリラックスできているように感じているということだ。俺はこういう状況を呼吸が深いと表現するタイプなのだ。




こうして全身を使い自然を感じていると、次第に俺はある違和感を感じた。




違和感、というよりも勘違いかもしれないがなんだか左腕が熱く感じ、さらに少し所からも同じように熱い熱が出ているように感じた。




左腕から感じる熱さはなんだか熱湯に腕を突っ込んでいるようなヒリヒリしたものだったが、遠くから感じる温かさは重くじんわりと温める遠赤外線のような熱さだった。




目を開け左腕を見る。しかしそこにはスラ君がプルプルとまとわりついているだけでこれといった変化はなかった。俺が見ていることに気が付いたのかスラ君はプルプルと震えてきたが俺はごまかすためにスラ君を撫でた。




次に遠赤外線のような熱さを発する原因を探すため目線を移動させる。そこはイーサン達がなにやら岩を動かしているところより少し奥にある大岩からだった。




俺は立ち上がりその一際大きい岩へと足を進めた。なんとなく気になってしまったのもあるが、無視していいとも思えなかったのだ。




一歩一歩大岩へと距離を詰めると次第にイーサン達の手が止まり俺を見てきた。俺はそんな目線を無視して岩へと近づくと大岩の前へ立った。




しかし大岩は他の岩と特に違う個所もなく、ただサイズが大きいだけの岩に過ぎなかった。苔も特に他の岩とは違わない種類の苔がが生えており特段変わった物はなかった。






しかし下を見てみると少し大きめの丸い穴が開いていることが分かった。穴は開いているというよりも繰りぬかれたような穴であり俺はその穴が気になり穴の中を覗き込む。しかし穴は思ったよりの細く、俺の腕周りよりも少しだけ大きな穴であっただけだったために中は良く見えなかった。




顎に手を当てこの先に何かがあるのではないかと思案しているとそこに白いマフラーを巻いたアルファが現れた。




アルファは俺の顔を見ると首を傾げ「どうしたの?」といった反応を見せてきたので俺は穴を指さした。アルファも最初は穴の中を覗き込むような仕草をして穴を眺めていたがしばらくして立ち上がると俺のように考える仕草をした。




「なんかさ、この穴が気にな…」




俺が話をしようとアルファを見た時だった。アルファは左の掌を上に向け、右手は顔の横で手のひらを外に向けたまるで中国拳法の構えを取っていた。




「へ?アルファさん?」




俺はそんな情けない言葉をアルファに向けたが、俺の声は届くことはなかった。




ドゴォォォォオオオオン!




そんな轟音と共に大きな土煙が上がったのだ。




原因はアルファが中国拳法の構えから右手を繰り出し思いっきり岩を殴ったからである。最初はトラック同士の衝突事故があったのかと疑うような轟音が響き渡ったため俺は両手をあげて「ぎゃあああああ!!!」と叫んだ。




そうして俺が後ろへパタンと倒れていると次第に周りを覆いつくしていた土煙は晴れていった。




俺は恐る恐る起き上がるとそこには変わらず大岩が立ちはだかっていた。先ほどの轟音と土煙が上がるほどの一撃で大岩は壊れることどころかヒビ一つ入っていなかった。




「おぉ、なんだはったりだったのか…?」




そう思いアルファを見るとジーっと大岩を眺めていた。しかし大岩を眺めているのはアルファだけではなくアリスやイーサンも同じであった。同じように大岩を眺めていた。




「なんだろ、特別な鉱石でできている岩なのか?」




俺はそんなことを言いながら岩をペタペタと触ってみた。しかし俺の目からは特に変わったところはない普通の岩に見えた。




「なんだ、普通の石じゃないか」




そういい俺はぺしぺしと笑いながら叩いてみた。すると目の前の大岩はガラガラと音を立て粉々になった。




俺は唖然として固まり後ろを振り返った。




「「………」」




アリスやカイトでさえも同じように口を開けこちらを見ている。




俺は恐る恐るアルファを見るとアルファは頭をポリポリと掻く仕草を取っていたかと思うと俺の顔を見て親指をぐっと立ててきた。




「あ、はい。ナイスです」




俺はこの日以来アルファには決して逆らわないと心に誓った。




こんな大岩を破壊する一撃を生身で受けたらきっと車で跳ね飛ばされるよりも悲惨な事故現場になることが目に浮かぶ。




だからこそ俺はもうアルファには逆らわないんだ。まだまだ今生では生きていたい。




そうして煙が完全に晴れると大岩があった場所がよく見えるようになり、見てみるとそこには空洞が広がっていた。




しかもただの空洞ではなく人が削ってできたかのような空洞、つまりは通路のような穴が開いていたのだ。




「これは…イーサン以来のオーパーツがあるのか?」




そう思い空洞を覗くと洞窟の中からは少し生暖かい風が吹いてきた。




暗闇をただ眺めているとふいに後ろから暖かな光が差し振り返ってみると指の先に炎をともしたイーサンが立っていた。イーサンは俺の肩を叩くと穴の奥を指さした。




なんとなく「進むよ」と言っているような気がして俺は頷いた。きっとこの先にはイーサンが探していた修行場所があるのだろうと思ったからだ。




暗く奥まで伸びるトンネルをイーサンの照らすわずかな炎で照らしながら進んでいく。




歩いていくと俺はある違和感を感じた。人が作ったかのような、なんて表現をしたが実際この穴は人が作ったのかもしれない穴である可能性が出てきたのだ。




穴を進んでいくと次第に道が平らになっていき、最終的に石畳の階段が現れ始めたのだ。




オーパーツがあるかもなんて思ったが、俺は自然とこの先には何かあると確信していた。




そもそもこの場所を探していたイーサン達もこの森に落ちていたオーパーツだ。案内される先に何かあるかもしれないと思う方が自然であった。




そうして歩みを進めていくと穴の広さは広がっていき、人が四人横に連なって歩いても平気なほど広がっていた。




「なぁイーサンここって…」




そう聞いたがイーサンは振り返ることなく手をあおいで「ついてこい」とジェスチャーするだけだった。




仕方なく俺はその後ろをついていくと遠くにぼんやりと何かが見えた。




近づいていくと次第に灯りに照らされその正体が分かったが、目の前に現れたのは豪華な装飾で覆われた観音開きの扉だった。




扉の前に来るとイーサンは立ち止まり扉を見つめた。




すると後ろから二つの影がイーサンへと近づていった。その陰の正体はリャンとサンであった。




リャンとサンはそれぞれ左右の扉の前へ立つとその扉を押した。




すると扉はキィという高い音と共に開き、中へと入れるようになった。だが、扉の先はまだ暗く、うっすらとしか奥が見えなかった。しかしそのわずかな情報から見るにテーブルやいすが置いてあるのは見えた。




しかしイーサンが歩き、火が灯っている右手をそのまま降ろすと火力が大きくなり全容を明らかにした。




「なんだこれ…」




目の前に広がるのはガラス製のビーカーや黒い塊、謎の液体が入ったままになっている瓶などが置いてあった。




ドラマや映画では見たことがあるが、実際こんな光景をこの目で見るのは初めてだった。






「研究施設…か?」




オーパーツどころではない。確かにここに誰かがいた跡が残っていた。

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