第10話 君たちの色。これからの色。

カイトがいなくなってしまったため移動手段が徒歩しかなくなった。そうなるとこの森を散策するのも一苦労になってしまうので諦めて家の周辺を歩き回るだけにした。




案内された施設以外にも公園や公衆トイレなどが設置されていた。いったいどんな速度で建設を行っているんだとか思いながら横を通り過ぎていく。




しかしたった一日で風景が変わりすぎていて同じ場所なのかどうかも怪しくなってしまう。もし日本でこんな事が起これば違法建築だ何だと騒がれるだろう。だが彼らは重機なども使わずきちんと穴を掘り基礎を作って家を建てている。




コンクリートなんてものがないのになんであんなに綺麗な基礎を作れるんだろうか。




そう思ってみているとオーク達が俺に近づいてきた。先頭を歩いているのは俺の前に差し出されていたオーク君だ。どうも彼はオークたちのリーダー的な存在であるようで何かあるたびに彼の姿を見ている気がする。




彼は今後も関わるだろうから名前を付けてあげよう。誰だかわからなくなってしまうし。




「よ、なんかあったのか?」




俺が片手をあげ話しかけると彼は横へ一歩動いた。そうすると身長が二メートルほどある彼の後ろからは緑色の肌をしていて鼻が高く、目は黄色く吊り上がった身長の低い生物が現れた。




「な、なんだこれは!?」




いろんなブサかわ動物は見てきたがこのような奇妙な生き物は見たことが無い。正直言ってなんだか不気味だ。服装も腰布を巻き「ゲゲゲっ」と奇妙な泣き声をあげている。




俺は一生懸命に似ている生物を思い出したが唯一該当するのはゲームやアニメに登場する序盤の雑魚的で有名なゴブリンしかいなかった。




ゲームなど平面で見る分ではそこまで不快感を感じず見れていたが、正直深海生物を水族館で初めて見た時の衝撃に近い。結構グロい。




俺がたじろいでいるとオーク君とゴブリン君は跪き、何か俺の許可を求めているように見えた。




(もしかしてここに住みたいのか?)




正直俺の土地でも何でもないし、いろんな生き物が勝手に住み着いている土地なだけだ。俺の許可なんかいらないのだが。




しかしどうも動こうとしない二人を見ていて俺も参ってしまう。「好きにしていいよ」と告げると二人は顔をあげ顔を見合わせ抱きしめあった。もともと交流のある種族だったのだろうか?




俺はとりあえずオーク君を『ガルム』、ゴブリン君に『ラウド』と名付けた。名前の由来は俺の通っていた子豚カフェにいた豚さんの名前と、猫カフェにいたスフィンクスの名前からいただいた。




なぜ猫の名前を付けたのかというと、初めてスフィンクスを見た時に同じような衝撃を受け「これが…猫?」となった事が由来だ。毛のない猫というのもなかなかのインパクトだったのだ。




彼も同じようによくよく見て目を薄めて考える事を放棄すればなんとなくスフィンクスに似ている気がするためなんとなく可愛く見えてきた。




「ゲゲゲッゲッ」




うん、可愛いよ。ちゃんと可愛いよ。うん。




そうして彼らがペコペコしながら去っていくと散歩を再開した。よく見ると町中にゴブリンの姿も増えていることから彼らも集団でここへ引っ越したのだろう。




奇妙な泣き声が街に響き渡るのは違和感があったがその内そんな鳴き方の鳥がいたことを思い出した。なんという名前の鳥かは忘れたが結構綺麗な見た目の鳥だった気がする。そう思うと少し悪くないように思える。




しかししばらくして今度はミノタウロスのリーダーが前からこちらへ向かっていた。彼にも名前を付けなきゃいけないなどと考えているとなんだかさっき起こったことをデジャブに感じて身構える。




しかし俺の警戒は正しかったようで彼らの後ろに何か小さい影が二つあることに気づき俺は逃げ出したい衝動にかられた。




正直言って俺は生き物は何でも好きだしこれまでも沢山のお金を捧げてきた。普通は不細工だと言われるような動物でも可愛く見えたし大事にしてきた。だがこの世界に来てオークやミノタウロス、そしてさっきのゴブリンを見て分かった。




二足歩行の動物はなんか怖い!




人間に体系が近いこともあるせいかなんとなくホラー要素を感じてしまうのだ。同族嫌悪というものだろうか。見た目が人間に近いとどうにも緊張して委縮してしまう。




元々人間とそんなに関わることがうまくなかったからこそ俺は動物に逃げた節もある。余計に苦手意識を持っていしまい関わるときに委縮してしまう。




そしてついに俺の前へミノタウロス君が来ると俺はごくりと生唾を飲み込んだ。いったいどんな生物が出るのかと。




そうして彼が目を伏せがちにして連れてきたのは…。




「ミャオ」




「わん!」




二足歩行の猫と犬だった。




「はぅ!」




思わず抱き着きそうになるがぐっと我慢をして彼らを見る。




猫の方は日本でよく見る三毛猫で、性別も雌なのか着物のような服を着ている。目はくりくりとしていて黒目が大きくなっているためとても可愛らしい。




犬の方は柴犬のようにぴんと立った耳であり尻尾もふわふわでくるくると渦巻いている。いやもうこれは柴犬なのだろう。彼は雄なのか甚平のような服を着ていた。




そうしてミノタウロス達がガルムと同じように跪こうとしたときに俺は彼の肩をガシッと掴んで「よくやった!」と叫んでしまった。キョトンとした顔の三人だが俺のテンションは最高潮だった。




二足歩行の生き物万歳!かわいい!大好き!




俺は食い気味に「好きなだけここで暮らしていってね!」というと二人は目をぱちくりと動かし頭を下げた。




どんな名前を付けてあげようかと悩んだがミノタウロス以外の二人はいたってシンプルな名前にした。




ミノタウロス君は『ラウム』。これはガルム君と同じような響きだしなんとなくゴロでつけた。そして肝心の二人は猫の方が『たま』、柴犬の方を『ポチ』にした。




この世界では逆に珍しいだろうという俺の考えから生まれた名前だ。日本でさえ今では余りつけられることの無くなった名前だしね。




そうして三人とも俺へ頭を下げるとどこかへ行った。




気分よく歩いていると物陰からイーサンがこちらを覗いているのが見えた。なんだか睨んでいたような気がするのだが気のせいだろうか。




そんなイーサンからの視線から逃げるとどこからともなくリャンとサンが現れ俺の跡をついて歩きだした。スーの姿を探すといつの間にか俺の後ろにいてびっくりした。気配を隠すのがうまいのか?




そうして歩いているとたまとポチの仲間たちの姿が見え始めた。彼らはそれぞれやはり違う種類の犬猫の種類をしていてアメリカンショートヘアーやベンガル、ヨークシャテリアやゴールデンレトリーバーのように多種多様だった。




「………」




目の保養だと彼らを眺めていたがその中に一匹スフィンクスの姿を見つけた。




「………」




何を思ったかは秘密にする。見た目判断するなんてよくないからね。




ちょっとした罪悪感を抱えてしまいとぼとぼと歩いていると犬の小さな男の子三人とと猫の女の子三人が近寄ってきた。何かと思ってしゃがんで「どうしたの?」と聞くと彼女たちはそれぞれ一枚づつ布を取り出してきた。




それぞれ赤、青、緑、黄色、黒、白色の布だった。元の世界で言うマフラーほどの長さの布を俺に渡すと頭を下げ親の元へと走っていった。親へ抱き着く彼らに手を振ると貰った布を見ながら歩く。




とてもきれいに染まっている布で現代社会においても結構いい値段で売れそうな質のいい布である。だが俺はこの布の使い道を一つしか思い浮かばなかった。




「ほらリャン、サン、スー。これやるよ」




普段俺の傍にいるゴーレム達へと渡すことだ。彼らは少しの際はあれど基本的に顔は同じだ。はっきり言って見分けがつきにくい。




少し遠くに行ってしまえばはっきり言って見分けがつかない。そのため目印で何かあげたいと考えていたのだ。




リャンには青、サンには緑、そしてスーには黄色をあげた。




それぞれは布を受け取るとじっと布を見つめた後三人ではしゃいでいた。なんとなくスーはあまりそういう仕草をしない方だと思っていたが思った以上に喜んでくれて嬉しい。




そしてリャンは腕へ巻き、サンは腰へ、スーは首へと巻いて俺にどうだと聞くようにくるくる回って見せてくれた。俺は「似合っているよ」と手を叩きながら伝えると三人とも大盛り上がりだった。




しかし後ろからバキバキバキ!と大きな音がしたので見てみるとそこには壁を握りつぶさんとする勢いで握っているイーサンの姿があった。




恨めしそうにこちらを睨んでいる気がする。なんだか怖いな。




だが俺はイーサンを手招きして呼ぶと赤い布を掲げた。




「これはおまえの分だよ!」




彼はリーダー的なポジションだし、頼りになる。そして俺の中ではリーダーは赤というのが決まっている。




イーサンは両手をあげこちらに走ってきたがそのまま顔面からこけてしまった。しかしそんなことも気にせず地面を這いずって近づいてくると俺から布を受け取り天へと掲げだした。




なんかこいつの反応いちいちオーバーで可愛げないよな。しかし真っ直ぐででなんとも気持ちのいい性格だ。




どこへ巻こうかと体へ布を当てているイーサンを見て、彼にはぴったりな場所があると感じた。




「お前は頭に巻いたらどうだ?」




俺の言葉を聞き頭へ布を巻くイーサン。海賊みたいなかぶり方だがなんとなくたなびいていてかっこいい。




そしてイーサンも満更ではないのかどうだとリャン達に自慢している。リャン達も「ハイハイすごいですねー」という雰囲気でイーサンへ拍手を送っている。




そして喜びながらガルムとラウムの元へ戻っていくイーサンを見送ると俺は湖の傍へ来た。湖にはカイトの仲間たちが楽しそうに泳いでおり、夕日が湖に沈んでいっている最中でとても絵になる景色だった。




俺はその景色を見ながら岩の上へ腰を掛け「ふぅ」と一息ついた。




ここへ来てまだ二日だというのに俺はかなりあわただしい日々を過ごしていてこういった時間を取ることが少なくなっていた気がする。




今日だけでもかなりの種族が住むようになったり発展をしているのだが肝心な俺はというと何もせずただボーっと徘徊するだけの暇人になっていることに少し自己嫌悪してしまった。




異世界へこうして生まれ変わることはできたが実際のところ俺ができていることは何もない。




スラ君へ手を伸ばし触れる。スラ君も抵抗せずに俺の手を受け入れてくれる。




「みんなのために何をしてあげられるかな?」




そんな俺の弱音をぽよぽよと揺れるだけでただ聞いてくれるスラ君。返答や回答がないのは少し悲しいがそれでも誰かに聞いてもらえるだけでも嬉しい。




しかしそんなセンチな気持ちで湖を眺めていると地鳴りが響き始めた。




何事かと思い振り返ると森の中から土煙をあげて何かが走ってくるのが分かった。リャン達が俺の前に立ちはだかり守る体制をとる。俺はその陰に隠れて近づいてくる音に警戒をした。


すると勢いよく森から影が三つ飛び出してきた。




夕日に照らされて姿が確認できるようになり、相手の事を見るとオメガとアルファ、そしてカイトだった。




全力で走って俺の前に来ると「どうだ!」といわんばかりに俺の事を見てきた。何を言いたいのかよくわからなかったため「お、おかえり」と伝えると三人とも「それでそれで!」と近寄ってきた。




「ぶ、無事でよかったよ?」




満足そうに胸を張る三人。しかしよく見るとオメガが何かを掲げて、アルファは何かを抱えていた。俺は二人に「それは?」と聞くと待ってましたと言わんばかりに手に持っていたものを降ろした。




なんだかプルプルとしていてクラゲのように見えるものを大量に持っていた。オメガが持っていたのは一際大きなクラゲだった。




そしてカイトの背からは小さな緑色のふわふわがおりてきた。綿毛のようだが緑色に発光していてまるで妖精のようだった。そしてひかりン中心にある姿を見ると小さな羽の生えた人間であることが分かった。




「わ、妖精さんだ!」




昔絵本で見た妖精と同じ姿だったことに感動をして俺はまじまじと妖精を眺めると妖精は恥ずかしそうに体をひねって照れた表情を取った。




うん、すごい可愛い。めちゃくちゃ可愛い。すごく好き。




俺は三人に「新しくここに住む人たち?」と聞くと三人とも頷いて肯定してきた。俺は隠れてガッツポーズをすると「よくやった」と声をかけた。




「ほら、とりあえず二人にはこれやるよ。いい子にしろよ?」




そういい俺はオメガには黒、アルファには白の布を渡す二人ともキョトンとした表情の後リャン達を見て理解したのか飛び跳ねて喜んだ。カイトが「自分の分は!」と頭をかじってきたのでこんどまたあげると約束した。




意外なことにオメガたち二人が巻いたのは二人ともお腹だった。それぞれどこに巻くかと考えていたがそのチョイスは意外だったな。というか腹巻にしか見えない。




「今度服も作ってもらってゴーレム達にも来てもらうか」




俺がそういうとオメガは喜びリャン達に抱き着きに行った。リャン達は少しうっとおしそうにあしらっていた。




しかしその瞬間俺の体をプルプルとした触感が包んだ。




何かと思いみると少し赤みがかった触手が俺を包んでいた。




「わっわっ!」




少しパニックになったが触手はすぐに引いていき俺はその触手の行方を見るとそこには先ほどオメガが掲げていた大きなクラゲが宙に浮き、俺を掴んでいた触手を上へあげていた。




俺を掲げられている触手を見ると他の触手とは少し変わっていることに気が付いた。一部分が欠けているように見え、一目で怪我をしていると気づいた俺は「動かないで!」と叫んだ。




そして動きを止めてくれるクラゲ。俺はクラゲが暴れないか警戒しながら近づくと触手に手を伸ばした。けがの状態を確認すると何やら溶けたかのように触手の一部が無くなっていた。クラゲも痛いのかプルプルと震えていた。




「大丈夫か?」




俺がそう聞くとクラゲは浮かぶのをやめ地面に降りてきた。そうして俺はクラゲを優しくなでると後ろを振り返った。




「オメガ!アルファ!正座!」




昨日の今日だというのに学習しない彼らをもう一度怒ることにした。




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「やったー服だってよ!俺達に服だってよー!」




「分かりましたからオメガは落ち着てください。それよりなんですかこの大きなクラゲは。ウンディーネですか?」




抱き着いてくるオメガを鬱陶しそうに俺はあしらいながら奥に倒れている大きなクラゲの正体を聞いた。




「そうだよ!僕たちで仕留めたんだ!」




「仕留めたぁ?」




そういい倒れているウンディーネを確認しようとした時だった。ふっと影が主様へ伸びたのが見えた。




「まずい!」




そう思った瞬間主様の体をウンディーネの少し赤みがかった触覚が包み込んだのだ。




「くはははは!油断したなこの石ころ共が!人間などこの手で殺して…っ!」




そう叫んだウンディーネだったが勢いよく触角を引いて主様を放した。何かと思いみると掴んでいた触手の一部が欠損しているのが見えた。




「まずい脚だね。伸ばしてくるから食べていいかと思って齧ったのにとんだゲテモノだよ」




そう話すのはスライムの姐さんだった。どうやら掴んできた所を溶かしたようだった。おかげで主様は解放され無事であるのが確認できた。




「このクラゲ風情が!」




俺たちは身に溢れかえる怒りに任せウンディーネへ総攻撃をしようとした時だった




「動かないで!」




主様がそう言葉を発するとその場にいた全員の動きが止まった。




その場にいる誰も動くことはできなくなり何があったのかと周りを見る。すると全員同じ考えなのか何が起こったのかと目を動かし辺りを探っている。




そうして一つの心当たりへとたどり着いた。




動かないで。




主様がそう叫んだことにより動けなくなった。つまりは主様が我々の動きを止めたのだ。




しかし主様は魔法を使えないはずだ。我々が今日一日観察をしていて魔法を使ったところは確認できなかったため間違いはない。




「なんなんだこの力は」




ゆっくりとウンディーネへ近づく主様に小さな恐怖を覚える。ウンディーネに関しては恐怖と拘束により大きく震えている。




そうして主様が伸びたまま固まった触手に、自らを捕らえようとした触手にできた傷を眺めそうしてウンディーネへ一言言葉をかけた。




「大丈夫か?」




どういう意味か、それはわからないがその言葉は威圧にも聞こえた。




そうしてウンディーネは再び意識を失い地面へと伏した。




そこでようやく体を拘束していた謎の術は解け、身体がようやく動き出した。




「い、今のは?」




「分からないよ、あんなの知らないよ」




サンとスーがそういいあった後俺を見てくるが、俺もあんなのは知らない。




「…あれは過去に我も受けた技だ。なぜか逆らえなくなるのだよ」




カイト様がそうつぶやく。これで主様の術であることが確定した。




だがかつての魔族領にもこんな力を使ったものは一人もいなかった。そう、魔王様でさえこんな技は使えなかった。




主様はウンディーネを優しく撫でるとこちらを振り向いてきた。




そうして何を言われるかと身構えていると…。




「オメガ!アルファ!正座!」




「なんでですか!?」




「僕たち今回はなにもしていないよ!?」




オメガとアルファが怒られた。それもなぜか理不尽に。




身構えていたこっちの気持ちも知らず二人を怒る主様を見てなんだかいつもと変わらないなと分かり安堵する。




そうして主様の説教は日が完全に沈むまで続いた。

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