第11話 ピーターのお手伝い屋さん
「いがいと、ふつうのおうちだ」
やってきたのは、トワノライトのはずれにある住宅街だった。
豪邸がちらほらと見受けられる中に、こぢんまりとした家があった。
赤いお屋根がキュートなその家は、トワノライトの中心地で見かけたような店舗と家が一体化しているタイプの住居だ。
家自体は三階建てのようで、暮らすにあたって手狭ということはなさそうだ。
「いやあ、なんというか……大きな家というのも落ち着かないし、分不相応な気がしてしまって」
「けんきょっ!」
街の礎を作った人が、こんな普通の家に暮らし続けているとは……好感度が高いにも程がある。
ユウキはピーターの家の玄関先にかかっている小さな看板を読み上げた。
「ピーターの、おてつだいやさん」
おお、読める。ユウキは感動した。
ルーシーからもオリンピアからも、読み書きは教わっていない。
(翻訳機が挟まってるみたいだ……日本語みたいに読める)
あの金髪ロリ女神様、やるじゃないか。
これはどう考えても、お得な特典だろう。
──特典っていうか、ただのスターターセットだから!?
なんて、遠くから懐かしいロリボイスが聞こえた気がしたけれど、ユウキは聞こえないふりをした。幻聴とか、怖いし。
「おてつだいやさん……」
もう一度、声に出して読んでみる。
なんというか、やっぱり変な商売だ。
何でも屋さん的なことなのだろうか。
「鉱山とエヴァライトの売買を管理する手間賃で生活には不自由しないくらいのお金をもらっているので……街の困り事を解決する手伝いをしたいと思って細々と仕事していたら、こういうことに」
「なるほど?」
つまり、趣味が人助け。
つくづく、徳の高い人らしい。
「どんなおしごとなの?」
「うーん……屋根の修理とか、夫婦喧嘩の仲裁とか、鉱山の観光案内とか、作りすぎた塩漬け魚を食べたりとか……とにかく、誰かの手伝いだったら何でもするよ」
「ほんとになんでも、なんだ」
ピーターに招き入れられて、ダイニングの椅子に腰を下ろす。
椅子が高くて届かなかったけれど、さりげなくポチが助けてくれて無事に座ることができた。
やっと大荷物を降ろすことができて、ホッとする。
ルーシーの教え通り、荷物はほとんど肌身離さずに背負い続けていた。くたびれてしまった。
「さてさて、長旅ご苦労様。ユウキ殿」
ユウキは一息を付くと、ぺこりと頭を下げた。
「おせわになります、ピーターさん」
「こちらこそ、ご逗留まことに光栄です」
ピーターがにかっと笑った。
綺麗に生えそろった白い前歯が眩しい。
優しげで地味な見た目に騙されそうになるが、この人、イケオジだ──ユウキは悟った。ルーシーの人脈はどうなっているのか。
「ピーターさんはししょうのおともだち、なんですよね?」
「たいちょ……じゃなかった、あのルーシー殿が『自分だけでは手に余る』なんて言い出したのは驚きましたが、案外と普通のお子さんでホッとしてます」
「て、てにあまる?」
「おっと、聞いていなかったですか? 師匠として教えられることは教えたが、山奥にはいかんせん魔獣とオリンピア以外がいないのでこれ以上は教えられない……と。それでルーシー殿の生家の家訓に従って、可愛い子に旅をさせることにした──と」
「も、もちあげすぎっ!」
「しかも、別世界からの
それにしても、「可愛い子」って。
(色々と考えてくれてたんだ……ちょっと、厄介払いかと思っちゃって悪かったな)
なんというか我が師匠ながら、感情表現がわかりにくい人だ。
その時、誰かがパタパタと階段を降りてくる気配がした。
途中、ドタンッという明らかにずっこけた音がしたのは聞かなかったフリをするのがマナーであろう。
ドアが開くと、色白の肌に散るそばかすがチャーミングな女性がダイニングに飛び込んできた。ゆるい三つ編みにして一つにまとめている髪のところどころがほつれていたり、前髪がびょんっと跳ねていたりと、見るからに寝起きといった様子である。
年の頃は二十才前後だろうか。
来客中の登場シーンとしては無礼千万にも関わらず、何故か憎めない雰囲気の人だ。あわあわと慌てふためいている。
「おはよぉっ! な、なんで起こしてくれないの、お父さんっ」
「いつも起こしたって起きないじゃないか」
「だからって……今日はお客様もいらっしゃるのに!」
しょぼん、と肩を落とした彼女は今、ピーターを「お父さん」と呼んだ気がする。つまり、ロジカルにはじき出される結論として──。
「あ、ご紹介します。娘のアキノです」
「はじめまして。アキノよ……って、あなたが噂のお客様?」
ぱちぱち、とアキノは目を瞬かせる。
さきほどまでは半開きだった目がやっと開いたという感じだ。
「はい、きょうからおせわになりますっ。ユウキです」
「ユウキね、よろしく! てっきりイカつい男の人が来るのかと思ってたら……おちびちゃんなのね? かわいい~っ」
「わふっ」
「そっちのわんこも一緒かしら? 客間は好きに使ってね、あとで案内するわ……って、お父さん!」
「ん?」
「ん? じゃないわよ、お客様にお茶も出さないなんて」
「あっ! ごめん、うっかり忘れてた」
「もう、気が利かないんだから……」
「すまん」
「いいわ。父さんは片付け係だもんね。すぐに淹れるから待ってて。それとも、ミルクがいいかしら」
アキノは手際よくお茶の準備を進める。
ハーブティーの匂いがする。お茶っ葉はあまり一般的ではないのだろうか。
ミルクは遠慮しておいた──赤ちゃんといえばミルクというオリンピアの思い込みにより三才になる直前くらいまで、毎日ルーシーが仕入れてきたミルクをお腹がたぷたぷになるまで飲まされていたのだ。あと数年は飲みたくない。
「じゃあ、座ってお待ちくださいな」
キッチンには見たことのない道具が置かれている。
(なんだろう、あれ)
ポットに水を入れると、アキノは何やら道具を操作した。
途端に、道具が光り始める。
少しすると、ポットから湯気が噴き出した。
炎もあがらなかったのに……まるでIHヒーターだ。
「わっ、すごい」
「これがエヴァニウム鉱石を使った魔道具よ。お父さんあてに色々と試作品が送られてくるから、ありがたく使っているの」
精霊であるオリンピアがいなくとも、こういう道具があるのか……とユウキは感嘆した。
ピーターがアキノの淹れたお茶を運んできた。爽やかな香りが鼻をくすぐる。もう片手には深皿にミルクが入ったものを持っているが、そちらはポチ用のものだった。
ふんふんと鼻を鳴らして、ポチも美味そうにミルクを飲み始める。
「とてもべんりですね」
「まだまだ、この街の一部でしか出回っていないんだけどね」
「その……エヴァライトって、どんなこーせきなんですか?」
貴重な燃料だというのはわかったけれど。
聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥。まだ六才なのだから、わからないことはなんでも尋ねておこう……とユウキは質問してみた。
アキノが一瞬、虚を突かれたように瞬きをしてから、ふふっと吹き出した。
「トワノライトに生まれ育ってると新鮮な質問かも。エヴァニウムはあって当然のものだから」
「そうなんだ」
「精霊石エヴァニウム……簡単に言えば、大昔の精霊様たちの力が溜め込まれて結晶になった石なの。トワノライトで採取できるエヴァニウムには、光や火の精霊様の力が多く含まれているのよ」
「そのかわり、力を引き出すのに専用の機構が必要だし、精製をするなどの手間がかかるんだ」
(ほー。化石燃料、ってことかな)
「魔王時代以前は、瘴気じゃなくて精霊様の力が大気中にたくさんあったらしいから、わざわざ手間暇をかけてエヴァニウムを使う必要はなかったんだけど……今は精霊様の力がどんどん弱まっているから、エヴァニウムは人間にとって福音なのよ」
「むかしは、エヴァニウムがなくても火をだせたりしたの?」
「ええ。精霊術とか魔術とかって呼ばれてた技術よ」
「体内に魔力を大量に蓄えている人以外は、今は使えなくなってしまったけれどね……昔は待機中の精霊の力を使って、多くの人が魔術を使っていたよ」
「ふぅん」
ということは、そのエヴァニウムが大量に採掘される鉱脈を見つけて、それを発展させてきたピーターは本当に人間全体にとっても英雄なのでは。
とてもすごい人だ。
「ぼく、山奥でそだったからなにもしらなくて」
教えてくれてありがとう、とぺこりと頭を下げる。
ピーターがにかっと笑った。
「まあまあ、そんなにかしこまらないで。知らないことは知っていけばいいし、そのためにトワノライトに滞在してもらうのですから」
「はいっ」
ポチが大あくびをしながら、ユウキたちのやりとりを眺めている。
早朝の馬車でこの街に着いてから、色々とあってもう午後だ。
……そう考えると、アキノはかなりの寝坊癖があるようだ。
「さて、部屋は三階にある客間を使ってくれ。アキノ、ユウキ殿をご案内してくれるかい?」
「はい、お父さん」
「よろしくおねがいします」
「……ああ、その前に」
ピーターがユウキを呼び止める。
そして、ぽつりと。けれど、意を決したように尋ねた。
「その……ルーシー殿とオリンピア殿は山で元気にやっていましたか。俺はあそこまで行くことはできないから」
「はい、とてもげんきだし……ふたりとも、仲良しですよ」
たまに見ているユウキのほうが照れるくらいに無意識にイチャイチャしていることもあるし。
それを聞いたピーターはクシャリと破顔した。
「そうか。なら、よかった……ユウキ殿が繋いでくれた縁ですね」
「……?」
「あの二人、お互いに少し頑固なところがあるので……お互いが唯一無二の存在なのに、ほとんど交流がなくなっていたので」
「えっ?」
「心配していたんです。だから、ユウキ殿の存在のおかげでお互いが素直になったのかも。ルーシー殿もあの歳で子を育てることになるとは、とか言っていましたが……見たことないくらいに穏やかな表情をしてね、俺も嬉しかったんだ」
ビックリだ。
いつでも仲良く喧嘩している二人だから、まさか自分がやってくる以前に気まずい状態があったとは。
「ありがとうございます、ユウキ殿」
(わからないものだなぁ……というか、何もしてないのに感謝されちゃった)
なんだか、照れくさいというか、気まずいというか。
でも、気持ちだけはありがたく受け取っておこう。
「もう、お父さんはすーぐルーシーさんたちの話をするんだから。昔話ばっかりするのって、老害のはじまりなのよ?」
「うわ、手厳しいなぁ。うちの愛娘は!」
くすくすと笑いあう父子である。
母親の影が家の中にはないのだけれど、色々と事情はあるのだろうし尋ねないでおこう。
「さあ、改めてユウキ殿の部屋を……って、おや」
からん、ころん。
……かららん。
ドアベルが鳴った音が響いた。
「お客さんのようだね」
「お茶の追加を淹れないとね……ごめん、ユウキさん。少し待ってね」
アキノが立ち上がった瞬間に、ドアが開いて憔悴した様子の男が入ってきた。
「す、すみません! お手伝いをお願いします」
このダイニングは応接間も兼ねているらしい。
お客は──「ピーターのお手伝い屋」に助けを求めにきたお客さんだった。
◆
ちょこん、とダイニングテーブルに座って、ユウキはお茶を一口飲んだ。
(う、薄いし苦い……)
ハーブティーらしきお茶は、あまり美味しくなかった。匂いが爽やかだったので、期待をしていたのだけれど……この世界の食べ物は、なかなかハードな味付けが多い。というか、基本的に味が薄いのだ。
流れで同席することになってしまったが、完全に部外者である。大丈夫なのだろうか……とソワソワしてしまうが、これからピーターの手伝いをしながら暮らしていくのである。
(習うより慣れろ、だっけ)
初めてのアルバイト先で、ろくな研修もなく現場に放り込まれたときにはずいぶん横暴なことを言う人がいるものだと思ったものだけれど、一理くらいはあるのだと今ならわかる。
「すみません……困り果てていたら、お手伝い屋さんならどうにかしてくれるんじゃないかって知り合いに聞いて。相談だけでも……いいでしょうか……」
依頼人はヒルクと名乗った。
家を貸して生活をしているらしい。
いわゆる、大家さんというところだろう。
身なりのいい痩せた男性で、形のいい口ひげを持っている。
年齢はアキノさんよりも少し年上といったところだろうか。
飛び込んできたときにはとても混乱した様子だったけれど、アキノの淹れたハーブティーを飲んでいるうちに、少し落ち着いてきた様子。
「ご相談というのは?」
柔らかい声でピーターが尋ねる。
とても安心感のある声だが……とても腰が低くて、やっぱり「すごい人」には見えないのが、ピーターのすごいところだ。
ユウキは話の邪魔をしないようにと、黙って耳を傾けた。
ポチはといえば、ふんふんと鼻を鳴らしながらヒルクの周辺をうろうろしている。何か気になることがあるのだろうか。
「それが……お恥ずかしい話なのですが、私が管理している屋敷のうち一件が『瘴気溜まり』になってしまいまして」
「しょーきだまり……?」
また知らない単語だ。
瘴気というのは、魔王が倒された際に世界中に広まってしまったという、生物にマイナスの力を及ぼすエネルギーのはず。
「はい……西地区にある大きな屋敷を貸し出していたのですが、前の借主が夜逃げしてしまいまして……バタバタしていて、清掃をすっかり忘れていたのです」
「あら、西地区ってことは平原からの瘴気が流れ込みやすいですね」
アキノが表情を曇らせた。
「はい。自分としたことが、気が緩んでいて……気がついたときには屋敷はすっかり瘴気溜まりになっていて、魔獣が入り込んだり、家具のうちいくつかはすでに魔物化してしまいました」
「それは大変だ」
「うぅ……念のため、騎士団の支部にも申し入れをしました……ですが、もうこのようになっては瘴気祓いには手間がかかりすぎると。屋敷ごと破棄するしかないと言われてしまって……」
破棄というのは、ようするに屋敷ごと燃やしてしまう処置らしい。
乱暴だけれど、手っ取り早そうだ。
アキノがヒルクに質問を続ける。
「破棄なら、費用は騎士団持ちでやってくれますよね?」
「そうなのですが……実は、その屋敷というのが私が生まれ育った家なのですよ」
心底申し訳なさそうに言って、ヒルクが肩を落とす。
「父が残してくれた屋敷なのです。思い入れがありまして」
「思い入れがあったのに、手入れを後回しにしたんですか?」
「うっ……はい、まあ、そうです」
ヒルクはすっかりうなだれてしまった。何か事情がありそうだ。
それにしても、アキノは切れ味鋭すぎる。見た目に反してかなりズバッといく人だということがわかった。
「夜逃げしたという前の借主というのは、どなたなんですか?」
「それは……別れた女房です……」
「えっ、ヒルクさんの生まれた家なのに別れた奥さんが?」
「元はあいつの浮気が原因での別れ話だったのですが……頭と口の回る人だったもので……何故か自分が追い出されて……」
うわあ、とユウキは頭を抱えた。
ヒルクさんは、とんでもなく気が弱い人なのだろう。
ユウキにも似たような思い出がある。人生ではじめてできた彼女らしき人物が、何故か家に転がり込んできた。数ヶ月後、新しい男を作った彼女は友人を捨てて出て行ったのだが、その間に買い換えたゲームハードやら電子レンジやらを何故か「財産分与」だとかいう名目で持っていってしまったのを思い出す。相手にも事情があるのだろう、と何も言わなかったし、揉めるようなこともなかったけれど。
(他人事とは思えない……というか、忘れていた黒歴史が……)
どんよりとした空気を察したのか、ポチが「わん!」とひとつ吠えた。
犬は偉大だ。ちょっとだけ、沈んだ空気がリセットされた。
「あちこちに借金を作って、夜逃げしたそうで……。でも、あいつが生活をしていた場所だと思うと、どうしても足がむかなくて……放置していたらこんなことに……」
「ははは、まぁ。そんなこともあるでしょう」
ピーターがどんどん落ち込んでいくヒルクを笑い飛ばした。不思議と心が晴れやかになる笑い声だ。
「お願いします、もう自分の手に負えない状況になってしまいました! あの家を元通りにしたいのです……っ!」
涙ぐむヒルクに、ピーターは大きく頷いた。
「任せてください。何でもお手伝いするのが、うちの誇りですよ」
「ありがとうございます……っ」
「とはいえ、今は仕事はほとんど娘に任せています」
ピーターに話を振られて、アキノがぐっと胸を張る。
この仕事はアキノにとっても誇りなのだろう。
「お父さん、ヒルクさんのお手伝い、急いだ方がいいんじゃないかしら」
「うん、瘴気溜まりの清掃なら早いほうが仕事も楽に済むだろうからねぇ。それに……」
ピーターがユウキに視線をむける。
ぱちん、と目が合った。
「ユウキ殿もご同行いただくなら、安心ですからね」
「たしかに。お手並み拝見ね!」
「えっ」
いやいやいや、逆に安心できないのでは。むしろ世間知らずの六才児が同行しても大丈夫なのだろうか。
ユウキが戸惑っていると、アキノが依頼人を安心させるかのように自信満々に微笑んだ。
「では、すぐにでも着手します。ヒルクさん、手続きはあちらの事務所で行います。詳細の聞き取りも一緒にさせてくださいね」
「は、はい!」
途端に、ヒルクがほっとした表情になった。
「よかった……実は、騎士団の支部以外にも色々なツテに相談したのですが……やんわりと断られてしまっていて、諦めかけていたのです」
「危険だし手間がかかりますからね、瘴気溜まりの清掃は」
聞いてしまった──危険だし、手間がかかる。
そんな仕事、同行して大丈夫なのかしら。
(……まあ、困ってる人を助けてお金が稼げる。これが師匠の言う「修行」なんだとしたら、まずはやってみよう。ポチもいるし)
アキノに連れられてダイニングから出て行こうとしていたヒルクが立ち止まって、お茶を片付けようとしているピーターに振り返った。
「あの……ピーターさん?」
「はい、なんです」
「ピーターさんが、あの鉱山卿だという噂って、本当ですか……その、たしかにお顔立ちが似ている気がしますが」
ぴたり、と全員の動きが止まる。
銅像の前にいるときには、たしかに似ている気がしたけれど……にこにこと笑っているピーターは、まさかこの街を建てた英雄だとは思えないだろう。
それを受けてピーターは、ニコッと笑って見せる。
「あっははは、さあ。どうだろうね?」
「はは……そうですよね、変なことを聞いてすみません」
ピーターがはぐらかしたのを、やんわりとした否定と受け取ったのか。ヒルクはバツが悪そうな照れ笑いを浮かべてダイニングをあとにした。
「……ということで、ユウキ殿。俺が部屋に案内します。荷解きをしたら少し休んで。日が暮れたら、ヒルクさんの屋敷に現地偵察に行きますよ」
「ひがくれたら?」
「魔は夜に蠢く」
何かの諺らしく、ピーターは少し芝居がかって言った。
要するに、日が落ちてからのほうが被害状況がよくわかるっていうことだ。
(い、いきなりの現場かぁ……)
と緊張したところで、大きなあくびが出てしまった。
馬車の中でも図太く熟睡したとはいえ、長距離の移動から立て続けに色々とあった一日だった。
ちょっと、昼寝が必要だった。
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