第10話 幕間

 さて。

 時間は少し巻き戻る。

 口ひげの小男、アベルは背嚢リュックが歩いているような後ろ姿を見送って、溜息をついた。


「あの坊主と犬……何者なんだ?」


 彼の名はアベルという。

 いや、正確には「彼女」だ。

 どっかりと腰を下ろして、アベルは目深に被っていたフードを払う。

 ぺりぺりと口ひげを剥がすと、上背の小さな口ひげの男の顔の下から疲れ果てた女の顔が現れる。


 フードと前髪に隠れていた右目は、わずかに白濁している。

 アベルの瞳は特別製だ。

 人の能力を見極めることができる。

 色々とあって、盗賊まがいのことを生業としている。

 いま、つるんでいるスティンキーとマイティも、場末で埋もれていた彼らのスキルを見込んで仲間に引き入れた。富める者から、少しばかり分け前をもらって貧者に再分配する──それがアデルのやりかただ。

 だが、マイティの乱暴には困ったものだ。

 彼の腕力はたいしたものだが、やや虚栄心とプライドが高いのが玉に瑕だ。

 スティンキーの「潜伏」や「手先」の才能と気弱ではあるが善良な性格のほうが、マイティの乱暴に潰されてしまわないだろうか……というのは、余計なお世話かもしれないが。

 いや、今はあのユウキとかいう子どもと犬だ。


「ただの子どもにしては、めちゃくちゃな量の魔力を持っていた……それも、人間の魔力じゃないぞ、あれは」


 アベルの白濁した瞳は、視力を失っているかわりに「見えないもの」を見ることができる。

 たとえば、ユウキが連れている犬がただの犬ではなく──かなり強大な魔獣の類いであることとか。

 そんな魔獣が小さい子どもに懐いているのは、見たことのない才能スキル「テイム(特)」によるものだ。


「……面倒事にならないといいけどなぁ」


 人の「才能」を見る、というのは特殊技能だ。

 本来であれば、ミュゼオン教団や王国が所持する秘宝によって可能になるとか、ならないとか。

 アベルはそんな「眼」を持っているがために、今までそれ相応の危険な眼にあってきた。人と違う力を持つことの面倒さを、わかっているつもりだ。


「力なんて、自分のために使うくらいでちょうどいいのにな」


 自分がまだ年端も行かぬチビのくせに、見ず知らずの行き倒れを、当たり前のように助けようとしていたユウキを思い出して、アベルは小さく舌打ちをした。












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