2023年3月~5月

『季節は巡る』

 ぐじゅん、と水気交じりのくしゃみが出て、ティッシュを一枚引き抜いた。

 薬が効くまでの間はいつだって、正直見せたいような顔じゃない。

 だけど心底心配そうな顔をしたあなたが、冷えた濡れタオルをそっと目元に当ててくれるから、丸ごと愛されてるような気がするこの季節を、私は好きになっていく。

(2023/03/27)


『新茶』

 湯呑を傾けた君が、草!と叫んだ。

「草?」

「匂いが草!いい匂いだね。いつもと違うお茶?」

「あぁ、新茶だからかな」

「そっか、こんなに違うんだね」

 君が感心したように頷く。それにしても。

「「草。って」」

 シンプルすぎる感想に、二人して吹き出してしまう。

 朝は、笑う声と一緒に始まった。

(2023/05/14)


『待つ』

 あなたの指が、私の耳の輪郭を確かめるように動く。

 さりさりと音が響いて、乾いた手の感覚に、背中がそわりとした。

 そのままあなたの手が私の髪に侵入してきて、ほんの少し乱暴になった手が、私の髪をくしゃりとかき混ぜる。

 私を見つめるあなたの目が、少しだけ濃くなるこの瞬間が好き。

 深い色をした目が近づいてくるのをじっと見つめて。私の唇は、あなたに触れられるのを、ただ待っている。

(2023/05/23)

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