ふたり暮らしで迎える、はじめての夏(文披31題2023)Day15~23

『Day15 解く』

 食事の間結んでいた髪をほどくと、あなたの手が横から伸びてきて、絡まっていた部分をほどいてくれる。

「あ、ありがとう」

「ううん」

 少し癖のある私の髪は、絡まりやすくてそんなに好きじゃなかった。だけどあなたの手に触れられるのが嬉しくて、最近は結構好きかもしれない。

 するりと手が抜けていく感覚がくすぐったくて笑う。

 もっと触れてほしいって言ったら、あなたは赤くなっちゃうかな。

(2023/07/15)


『Day18 占い』

「占いってそれほど信じてるわけじゃないんだけどさ」

「まぁ、当たるも八卦、当たらぬも八卦だしね」

「ラッキーアイテムみたいなものがあると何となく探しちゃうのって何でなんだろうね」

「それは少し分かるな」

「ということで、今日の夕ご飯はカツカレーにします!」

 あなたが小さく噴き出して「いいんじゃないかな」と返してくれる。

 占いの結果が良くても悪くても、あなたと一緒にいれば十分幸せだなと思える私は、安上がりに見せかけて、結構欲深いのかもしれない。

(2023/07/18)


『Day19 爆発』

「油断した!」

 そう言う君の髪は、何だか複雑に絡んでいた。

「久しぶりの大爆発だよ!もー!」

 やっちゃったよ。と言いながら、君は僕の前にすとんと座った。

「よろしくお願いします」

「うん。お願いされます」

 寝ぐせ直しをスプレーして、櫛と手を使いながらほぐしていく。丁寧に絡んだ部分をほどいて、仕上げにドライヤーをかける。

 柔らかな君の髪の毛に触れられるこの時間が結構好きだと言ったなら、君に怒られてしまうだろうか。

(2023/07/19)


『Day20 甘くない』

 アイスコーヒーに、シロップをほんのちょっぴり。それがいつものあなたの飲み方。

「それって甘くなってるの?」

「甘いというより、柔らかくなってる感じかなぁ」

 コーヒーが飲めないというわけじゃないけど、アイスもホットも紅茶の方が好きだから、めったに口にすることはない。

「一口飲んでみてもいい?」

「いいよ」

 グラスを私の前に置いてくれたから、ストローに口をつける。うん、甘くはないし、

「柔らかさもよく分かんないな」

「気持ち程度、ってやつかもね」

 笑ったあなたがそう言う。

 その柔らかな微笑みを見ながらもう一口だけ飲んだコーヒーは、ほんの少し柔らかく感じた。気がした。

(2023/07/20)


『Day23 静かな毒』

 恋というものは、じわじわ毒を流し込まれるようなものだって、誰かが言っていたな。誰だったっけ。

「花?」

 じっと見つめる私に、あなたは顔を赤くして、それでもじっと見つめ返してくれる。

 静かな人だ。

 私の知り合った人たちの中でも、一番、と言ってもいいくらい、物静かな人だ。いつも聞き役で、おしゃべりな私の言葉をうんうん笑って聞いてくれるような人。

 黙ってすり寄ると、僅かに困惑したような気配がしたけれど、あなたは何も言わずに抱きしめてくれる。

 あなたが好きで、好きで、時々好きすぎて苦しいくらい。それが幸せでたまらないんだから、重症だ。

 静かに静かに毒が回って、私はあなたに溺れてしまったんだね。

(2023/07/23)

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