夏のふたり(文披31題2022)プロローグ

※twitter(現X)で開催されていた「文披31題」(主催:綺想編纂館(朧)様(@Fictionarys))企画への参加作品です。

毎日決められたお題に沿った話を書くという企画でした。

(31題にプロローグとエピローグをつけて一つの作品にしました。)


◇◆◇◆


『序 それぞれの「好きです」』

 夕方の、少しだけ涼しくなった風が通り過ぎていく。

 梅雨の晴れ間の風は、湿気を含んでいるからかそれ程心地良いものではないけれど、どこか安心する温さを含んでいる。


 隣に視線をやってみる。

 黙って夕日を見つめている陸の顔が、オレンジに染まっている。

 私の恋人は、穏やかで優しい、柔らかな人だ。


 私の視線に気づいたのか、あなたがこちらを見る。

「どうかした?」

 穏やかな微笑みに、胸がじわりと温かくなる。

 私はどちらかというとおしゃべりな方だと思っていたし、物静かなあなたに、うるさがられたり、逆にあなたの静かさを物足りなく思ったりするのかなと思っていたけれど、あなたは私のおしゃべりを楽しそうに聞いてくれるし、私は二人で静かに黙って寄り添ってるこんな瞬間が、とても好きになった。

「恋って不思議だなぁって」

「不思議?」

「あなたといると、世界が綺麗」

 あなたの顔が、ぱっと染まる。夕日の色に染まっていても分かるくらいにはっきりと。

 そう、とか、うん、とか。真っ赤な顔がそう言って、それからあなたはふにゃりと笑った。

「僕は君といると、時間がすごく早く過ぎるから、困るな」

「時間が?」

「うん。今日だってもう、こんな時間だし」

 夕日に照らされた顔が、困ったように笑う。

 そうね、そうだね。二人でいたら、時間がどれだけあっても足りないよね。

「あーあ」

 もう、今日が終わってしまう。

(2022/07/09)

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