クリスマスの迎え方

『アドベントカレンダー』

 水槽の隣に、赤と緑が目立つ箱を置く。小さな引き出しがたくさんついたその箱は、表面に数字が書いてある。

 中に入ってるのはささやかなお菓子とお茶葉。このために淹れ方は練習したんだ。

 毎日お茶一杯分だけはゆっくりする時間を取ろう。初めてあなたと二人っきりで迎えるクリスマスがやってくるね。

(2022/12/01)


『ツリー』

 赤と黒の金魚が、すい、と泳ぐ水槽の奥がやたらと派手になっていた。

「クリスマスツリー、的な?」

 君がそう言って、壁に立てかけられた色紙を取り出す。

 水草の絵に、沢山のオーナメントが描かれている。色鮮やかな飾りたちが目に楽しい。

 小さなツリーでも買おうかと言うと、君は嬉しそうに笑った。

(2022/12/03)


『キャンドル』

 キャンドルに火をつけて、部屋の電気を消す。

 ごくんとお茶を飲んだあなたが、ほぅ、と溜息をつく。

 ごそりと動いた手がお菓子に伸びて、さくりと歯を立てる音。

 揺れる灯にぼんやり浮かんだ景色の中で、隣のあなたの音を聞きながら、私もカップを傾けた。ほっとして、漏れた声はきっとあなたと同じ。

(2022/12/05)


『鈴の音』

 隣に座った君が広げたひざ掛けから、チリン、と音がする。

「これね、可愛いなと思ったんだけどちょっと失敗したんだ」

 僕の視線に気づいた君が、可愛いリボンで飾られた鈴を見せてくれた。

「巻きスカートにできるんだけど、動くと鈴が鳴るからちょっとうるさい」

 ……僕は結構好きかもしれないなぁ。

(2022/12/07)


『ホットワイン』

 ぽわりと頬が染まって、ほわりと表情が緩む。

 ふにゃり、と形容するのがちょうどいいくらいに、あなたは溶けてしまった。

 カップの中身はほとんど空だけど、いつものあなたなら酔っぱらうような量じゃないのに。

 抱きしめるように腕をまわして、じんわりと広がる重さを感じながら笑う。お疲れ様だね。

(2022/12/09)


『サンタクロース』

「サンタがプレゼントをくれるのは何かを盗んだ代わりなんじゃないかって、クリスマスの朝に大事なものを探して回ったことがあるんだ」

 君の言葉に、小さな君が大事なものを抱えてほっとする姿が浮かんだ。

 今の君が笑う。

「今なら、探すのは一つだけだけど」

 うん僕も、もし探すならたった一つだな。

(2022/12/10)


『ヤドリギ』

「冬は目立つよね、ヤドリギだっけ」

 君が指さした先に、木の上の丸い緑。

「下に立ってみようか?」

 悪戯っぽく君が笑う。ヤドリギの下に立つ女の子にはキスをしてもいい。なんてクリスマスの伝統があったっけ。

 赤くなる僕に、冗談だよと笑う君。

 家でね。と囁かれて、僕の顔はますます赤くなった。

(2022/12/12)


『ホットミルク』

 レンジで温めたミルクにはちみつを一さじ。たったそれだけが、君には随分効いたみたいだ。

 こっくりと船をこぎ始めた君の体を抱き上げて、チリンと鳴る抗議の音を聞きながら寝室に向かう。

 無理は禁物だから。夜が過ぎてしまって明るくなって、少しでも元気になれるまで。それまでの間ゆっくりお休み。

(2022/12/14)


『ジンジャークッキー』

 熱気と一緒に香辛料の香りがふわりと広がる。

 人にツリーにハートに星に、色んな形が崩れずきれいに焼けている。良かった、ちゃんと成功した。

 あなたが嬉しそうに微笑んで、私も嬉しくて笑う。

 可愛く飾り付けて吊り下げよう。クリスマスまであと少し、部屋の隅で小さなツリーが賑やかになっていく。

(2022/12/16)


『くつした』

 寒さが増して、段々厚着するようになった。

 今日はもこもこの靴下を出した。あなたはすぐに気づいて私の足元を見て微笑む。

 「可愛いね」いつもそう言ってくれるのが、実はちょっと恥ずかしい。

 あなたの隣に座ると、広げてくれたひざ掛けがチリンと鳴った。

 幸せすぎて、あったかすぎて、どうしよう。

(2022/12/18)


『トナカイ』

 お皿を洗う君から、鼻歌が聞こえる。軽やかな音を聞き流しながらお皿を拭いていたら、うっかり同じメロディを口に乗せてしまった。君がくすくす笑う。

「移ったね」

「つられちゃったな」

 僕が口ずさんだ言葉を引き継いで、今度は君が歌い始める。

 赤い鼻をしたクリスマスの人気者の歌を。楽しそうに。

(2022/12/20)


『イルミネーション』

感嘆の溜息が白く流れていく。

冷えて固まっていた空気が、そこかしこから聞こえた小さな歓声で少しだけ解けたみたい。

通りかかった道は丁度イルミネーションの点灯時間だったらしい。薄暗かった街が一瞬で輝く様は声に出せない位綺麗で。

代わりにあなたの手を握った。握り返してくれる力が嬉しい。

(2022/12/22)


『クリスマス』

豪華な料理に可愛いスイーツ。プレゼントを交換して喜び合って。特別な夜は賑やかに更けた。

ツリーとキャンドルだけの灯りの中であなたの音を聞く。時折チリンと鈴の音。

来年も、その次も、こうしていられたらな。

だけど今は、あなたの熱も呼吸も全部欲しいな。なんて。

夜はまだまだ終わらないね。

(2022/12/24)

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