ふたり暮らしで迎える、はじめての夏(文披31題2023)Day1~5
※twitter(現X)で開催されていた「文披31題」(主催:綺想編纂館(朧)様(@Fictionarys))企画への参加作品です。
毎日決められたお題に沿った話を書くという企画でした。
(31題全部は使わず、思いついたお題のみで書いています。)
◇◆◇◆
『Day1 傘』
飾り気のない紺色の傘の隣に、カラフルな花が開いた傘が並んだ。
君は傘を何本か持っていて、その日の気分だとか、着ている服との組み合わせだとかで使う傘を変えている。
今日の傘は、もう雨は大丈夫ですよー!という気持ちを込めて、とか言っていたっけ。色とりどりの花は、降り続く雨を押し返すみたいに主張している。
祈りが届いたのか、しばらくすると雨は勢いをなくして、やがて止んだ。
「大・勝・利!」
傘を畳んで天に拳を突き上げる君に笑う。
本当に君が、雨雲を押しやってしまったみたいだ。
(2023/07/01)
『Day2 透明』
透明のケースの向こう側に、ガラス細工が並んでいる。
動物モチーフや植物モチーフ、沢山の部品で組み立てられた家の形をしたものは、人や家具の細かい部分まで作りこまれている。
「すごいな」
ため息が混ざったみたいなあなたの声。
ガラス工芸作家の個展。たった一人が作り上げた芸術作品は、透き通った光を放っていた。
(2023/07/02)
『Day3 文鳥』
個展会場に併設されたショップに入る。
いくつもの作品がケースの中で売られていて、君と「すごいね」なんて言いながら見て回る。
「あ、これ可愛い」
君が足を止めた場所は、鳥モチーフの作品が並べられたケース。
「文鳥。白も可愛いけど、普通の子がやっぱりいいね」
青灰色の体に黒っぽい頭。頬は白く、くちばしはピンク色。
取り出してもらうと、お腹のあたりは薄いピンク色になっていて、かなり細かく作りこまれているのが分かる。
「一羽じゃ、寂しいよねぇ。どうしよっかな」
(2023/07/03)
『Day4 触れる』
手にとっても大丈夫だと言われたので、灰色の文鳥たちをじっくりと眺めてみる。
一つ一つ手作りのそれらは、それぞれ表情も形も少しずつ違っていて、どれも魅力的だ。
ちらりと隣を見上げると、気づいたあなたが首を傾げる。
「二羽お迎えするの?」
「うーん。そうしようかな」
しばらくあなたと文鳥たちを見比べて、一羽を手に取った。
つるりとしたガラスは少しひやりとしていて、手の中でころりと転がる。
持ち上げてあなたの顔に近づける。うん。
「これにする」
もう一つはあなたが選んでくれる?
(2023/07/04)
『Day5 蛍』
小さく柔らかな光が点滅する。
去年はあなたの肩に一匹止まっていたなと思い出してあなたを見上げると、やっぱりあなたの顔を照らす一匹が、あなたの肩にくっついていた。
去年と同じ一匹なわけがないことは分かっているけれど、安全なものがあることを知っていて戻ってきたのかななんて考えてしまって笑う。
「どうかした?」
あなたの声に驚いたのか、ふわりと離れた蛍は、何だか少し名残惜しそうに辺りを巡った後、すいと遠くへ飛んで行った。
(2023/07/05)
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