2024年1月

『初日の出』

 薄暗い道に、ざくざくと足音が響く。駐車場に着いたときは吐く息の白さが分かる程度の薄闇だったけれど、少しずつ自分の足元や辺りの様子が見えるようになってきた。

「間に合うかな」

「多分大丈夫」

 ちらりと向けた目に、柔らかい視線が返ってくる。

「駄目でも来年があるしね」

 さらりと告げられた言葉に、そうだねと返事をして、それから胸に灯った幸福を、じわりと噛みしめた。来年。そう、来年もあるんだ。と、当たり前のように感じられるのが嬉しい。


 坂道が階段に変わって、足音も硬い音に変わって、ようやく展望台にたどり着く。地平線はじわりと明るくなっていたけれど、まだ太陽が顔を出してはいないみたいだ。

「間に合ったね」

「うん、間に合った。ごめんね言い出しっぺが寝坊しちゃって」

「花にしてはかなり早起きだったけどね」

 くすくす笑うあなたに、もぅ、と言いながら拳を当てる。ぽすんと軽い音に、あなたの笑い声が被さった。


 地平線が、滲んで揺れる。白っぽい光がぽつんと顔を出して、周りの空が、波打つように揺れた。空が海になったようなそんな感覚に体がふらりと揺れて、あなたの腕に支えられる。

 顔を上げると、微笑むあなたが首を傾げた。あぁ、なんて。

「今年もよろしくね。陸」

「こちらこそ、よろしく。花」

 今年もきっと、良い年になる。

(2024/01/04)

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花粉症の彼女 須堂さくら @timesand

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