夏のふたり(文披31題2022)エピローグ
『終 夏の終わりに』
さく、とつま先が砂に沈んで、そのまま足を蹴り上げると、僅かの砂が宙を舞う。それからパサリとかすかな音を立てて砂が地面に落ちていき、すぐに波に濡れて分からなくなった。
夏の終わりの海岸は、早朝ということもあって人影がまばらで、まるで世界から切り離されたみたい。
隣を見上げると、あなたはやっぱりいつものように、空を見つめているようだったけれど、すぐに気づいてこちらを向いた。
「どうかした?」
「夏も終わるなぁって」
「あぁ、朝夕は随分涼しくなってきたよね」
「涼しくなるのは嬉しいけど、ちょっと寂しいよね」
「そうだね。日も短くなるし」
私たちが付き合い始めて、二度目の夏が終わる。去年は、付き合いたてで、お互い初めての恋人だったから、何となくぎこちなくて、恥ずかしがったり照れたりだった気がするけど。
二人で過ごすことに、随分慣れたね。あなたの顔がすぐ赤くなっちゃうのは、あんまり変わらないけど。それだって、愛しいことに変わりはないしね。
「そういえば」
顔を上げた私に、あなたが首を傾げる。
「七夕の日に、短冊を書いたじゃん。あれって何て書いた?私は『素敵な夏になりますように』って書いたんだけど。意外と叶っちゃったから」
「あぁ……。僕は、『皆が平和に過ごせますように』って書いたけど。本当は」
あなたらしい願い事に少しだけ笑って、続きを待つ。
「……君と、いつまでも幸せでいられますようにって、いつも願ってる。頭に浮かぶのなんて、いつだってそんなことばっかりだよ」
これは中々熱烈だ。
ほんの少し照れくさくなって、あなたの腕をぎゅっと握る。
「一緒にいられるなら、どんなことがあっても私は幸せだよ」
きっと、おわりのその瞬間まで。
ぱちんと瞬いたあなたが、頬を染めて微笑んだ。
「ねぇ」「あのさ」
言葉が被って、二人で少しだけ笑う。
いつになく緊張しているようにも見えるあなた。もしかして私達、おんなじことを言おうとしてるんじゃないかな?
だけどあなたが譲ってくれたから、私はあなたの耳元に、そっと口を寄せた。
そろそろ一緒に暮らしてみませんか?
真っ赤になったあなたが、それでも頷いてくれるってことを、私は知ってる。
(2022/08/02)
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