第3話 ビューアル子爵家の長女

 ビューアル子爵領は決して広くはないが起伏がある土地であり、一面の牧草地が広がっている。

 裕福ではないが、自然災害の少ない恵まれた土地で、酪農業を中心とした産業が発達している。

 中でも乳牛の飼育が盛んで、王都の貴族に人気であるチーズ等乳製品が有名である。


 ラズリス・ビューアルは子爵家の長女。とはいっても、上には2人の兄がいる。

 第三子のラズリスは、家族の中でも愛されながら、貴族の娘としてしっかりと教育され素直で真面目な子に育った。


 特に目立った美人ではなく、深い翠の瞳に亜麻色の髪、ベリル王国では一般的な見目であった。


 顧客の多くは王都にあるタウンハウスの貴族が多かった。社交シーズンである4月から7月ビューアル子爵は、学園に通っていない娘のため、社会勉強のつもりで、挨拶回りにたまに連れていくことがあった。


 ミランジュ伯爵家もそのひとつ。


 ラズリスがミランジュ伯爵の目に留まる。


 男爵家の娘リリアンと年恰好が合う。


 ミランジュ伯爵は早速、王都のタウンハウスにビューアル子爵家を呼び出した。


「本日はお招き頂きありがとうございます」

 ビューアル子爵は右手で左胸を抑え、深々と頭を下げた。

「貴殿のチーズは特に人気でこちらの商売も順調で助かっている」

 伯爵家は王都の有名なレストランのオーナーでもある。

 伯爵の今日の機嫌はいいようだ。


 1階の応接室に通されお茶を出された。

「商売とは別の話なんだが、貴殿の息女ラズリス嬢には婚約者はいるのかな?」

 子爵は目を見張る。

「ラズリスはまだ、17才です。今はまだ、結婚は考えておりません」

 それを聞いた伯爵は満面の笑みを浮かべ、

「それならうちの次男の嫁に貰えないだろうか」

 子爵はますます目を見張る。息をのみ一瞬呼吸が止まった。


 子爵風情が断ることは出来ない。


 予期せぬ伯爵の言葉に膝に置いてある両手は両膝とともに小刻みに震えている。

「家格下のうちの娘でもよろしいのでしょうか?」

 なんとか声を絞り出した。

「跡取りではない次男の嫁だ。長男の補佐をさせるつもりなので、生活には不自由させないつもりだが、どうかな」

「お返事は家に持ち帰ってもよろしいのでしょうか?必ずよいお返事が出来るようにさせていただきます」

 伯爵の機嫌を損ねるかもしれないが、即答はしなかった。

 この後も伯爵とは話をしたようだが、全く記憶になく、帰路につく。




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