第7話 結婚の条件

 朝になり、ビューアル子爵は執務室に入り、ミランジュ伯爵に訪問の先触れを書いた。

 早速、執事に渡し手配してもらう。

 早ければ今日中に訪問出来るかもしれない。


 娘を授かった日から、嫁に出す日が来なければ良いとずっと考えていた。

 幸い息子2人に恵まれ、跡継ぎの心配もしなくて良い。贅沢をしなければ領地経営も安定しているし、ましてや経済援助のための政略結婚など想像もしたことがない。

 娘にどうしても添い遂げたい人が現れればもろ手をあげて喜んだ…と思う。


 ミランジュ伯爵のバルト様個人の評判は良くないが、長男のレオナルド様は優秀な人物で、今は隣国に留学中だ。

 跡継ぎの長男であれば気苦労も多いかも知れないが、補佐的な仕事をするであろう次男のバルト様ならある程度の自由がきくかも知れない。


 家格上の伯爵家への嫁入りになる。子爵家よりも経済的に恵まれ、幸せに暮らして行けるだろう。自分を納得させる。


 朝食の後執務室で仕事をしていると、早速先程の先触れの返事が来たようだ。

 午後から訪問する予定だ。


 午後になり伯爵家に着くと、わざわざ当主自らが出迎えてくれた。余程縁談に乗り気でいるのか。


「ご当主自らのお出迎え、痛み入ります」

 子爵は右手を左胸に当て頭を下げる。

「良い返事が待ちきれなくてな、つい出てきてしまった」

 はははとご機嫌な笑い声をあげ、邸の中に入って行った。

 執事の案内とともに伯爵の後を追いかけるように応接室に向かう。


 お茶の準備が調い、執事や使用人が下げられた。

「返事を聞かせてくれるか?」

 ゴホンと咳をひとつ。

「身に余る光栄にございます。謹んで婚約をお受けいたします。是非とも我が娘をバルト様の妻に迎えて下さいませ」

 一息で言いきった。

「良い返事をありがとう。早速だが婚約期間は2ヶ月ということで」

 表情を緩めてはいたが、伯爵は上から目線で言った。


 子爵は予期せぬ言葉に固まった。

 通常、貴族の結婚は婚約期間が最低でも一年ほどあり、家同士や結婚相手との信頼を深めたりする準備のための期間がある。


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