第4話 婚約の打診

 ビューアル子爵はなんとか意識を保って帰宅した。

 ラズリスの結婚話の後の仕事の話やどうやって帰って来たのかも記憶にないぐらい動揺をしていた。


 ゆっくりとした足取りで玄関に向かうと既に、出迎えた執事や使用人、妻がいたが、あまりにも顔色の悪い子爵に戸惑っていた。

「あなた、どうなさったのですか」

 妻は独りでは立って居られそうにない子爵に慌てて寄り添い背中に手を当てて執事とともに身体を支えた。

 一番近くにあった応接室に毛布を持ってこさせ、ソファーに座らせた。

 侍女に暖かい飲み物を頼み、背中を擦りながら子爵の言葉を待った。

 こんなに具合の悪い主人を見るのは初めて。寝室は2階にあるので、とりあえず近い部屋で休ませたが、場合によっては医者を手配しなければならない。


「ああ、ミシェル」

 呻き声のようだった。

「あなたしっかりしてください。お医者様を手配いたしましょうか?」

 夫のロペスの顔をじっくりと見つめ答えを待つ。

「大丈夫、落ち着いたよ。ありがとう」

 大きく息を吐き、心配そうな妻の顔を見て答えた。

「夕食の後、大事な話がある。ラズリスは在宅しているかい?」

 ラズリスは外出で遅くなることもあり、夕食は別々に摂ることもあった。

「はい。今日は外出はしていないので、部屋にいるはずです」

「そうか、わかった」

 ロペスはようやく薄い笑みを浮かべうなずいた。

「夕食までまだ時間がありますので、お部屋でお休みください」

「そうさせてもらうよ」

 応接室のソファーでは落ち着かないと思い、ロペスには寝室でゆっくり休んで欲しかった。

 子爵家の使用人は人数は少ないが優秀で、短い間にもかかわらず連携して、すでに部屋を調え準備は終わっている。


 2階には執事に寄り添ってもらいロペスはゆっくり歩き始めた。


「伯爵家で何があったのかしら?」

 いつもは礼儀正しく穏やかな夫の見慣れない姿にミシェルは小さく呟いた。

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