第5話 婚約を受ける
夕食の時間になり子爵家は揃って食事をすることにした。
2人の兄はそれぞれ学園の寮にいる。
長男は地質学にのめり込み、研究やフィールドワークでほとんど家にはいない。
次男は今年卒業を控えているのでまだ、寮生活である。
王都のタウンハウスからも学園に通える範囲ではあるが、男子は社交や卒業してからの領地の運営に活かすための顔繋ぎがあるので、敢えて寮生活をしている者が多い。
本日、父のロペス、母のミシェルとラズリスで三人の食卓になる。
いつもは和気あいあいとして食事を楽しんでいるが、今日はなぜか重苦しい雰囲気に、ラズリスは不安を感じていた。
特別な話があれば夕食後となるので、重い空気を感じながらゆっくり食事をした。
夕食後応接室で話があるようだ。
食事室からそのまま応接室に入ると、いつもの場所に座る。
遅れて父と母が入ってきた。
やはり空気が重い。
「ラズリス、おまえに縁談が来た。相手はミランジュ伯爵の次男バルト殿だ」
ため息混じりに父が告げた。
「えっ」
この後なんて返事をしていいのか。
年頃になるのでそろそろ婚約の話ぐらい出てもおかしくないとは思っていたが、急な話に戸惑いを隠せない。
家格の上の伯爵家からの縁談は断れる訳がない。ラズリスは言葉が出てこない。
父は眉間に皺を寄せ、両手は膝の上で白くなるまで握りしめている。
母は黙って唇を噛みしめうつむいている。
家のためにこの縁談はお受けするしかない。
「わかりました。謹んでお受けします」
貴族の娘としての教育がある。
家のために嫁ぐのは当たり前なこと。自分自身に言い聞かせる。
ラズリスは学園にこそ通わなかったが、優秀な家庭教師をつけてもらっていたので、淑女教育は全くの問題がない。伯爵家に嫁いだとしても恥じることはない。
「ありがとうラズリス。ミランジュ伯爵には明日早速返事をしておく」
父は右手を額に当て苦しそうな表情で頷きながら答えた。
母は項垂れたまま、身動きひとつしない。
ラズリスは席を立ち、一礼をして自室に向かった。
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