第十八話 採掘
「総員、並べ!」
ぞろぞろと敗残兵たちが並んでいく。
号令をかけているのはアラタだ。
「これより黒鋼採掘作業を行う」
アラタは第八鉱山、つまり黒鋼が尽きた場所ではなく、他の鉱山に来ていた。そこを襲撃して――厳密には近寄ったら攻撃されたので反撃で皆殺しにして――敵を一掃した後、元敵だった人々を顎先で使うようになったのだ。
「これより黒鋼採掘を行う! 異論あるモノは絶ってそれを示せ!」
いるわけがない。
一回殺されているのだ。
そんな相手にわざわざ異論をはさむような馬鹿なんていない。
この地獄においても死とは忌避すべき現象なのだ。
「よろしい! では現時点での黒鋼採掘量は?」
「はい。五百グラムほどです!」
「その二十倍は欲しいな!」
ひぃ、と人々は恐怖の声を上げた。
五百グラムを手に入れるのだって、相当な無茶と時間をかけたのだ。それを二十倍とは一体どんな無茶をさせられるのだろうか。
鉱山ではなくその外に集められたのも不気味だ。
「それじゃあ今から、俺がこの鉱山地帯一体を切り刻むから黒鋼を見つけ次第、そこを掘り起こしてくれ」
え、と彼らは口から驚きの声を漏らした。
「それじゃあ行くぞ」
斬撃を一閃。
大地が抉れ飛ぶ。
「お、早速見つけた。手ごたえありだな」
アラタは笑う。
咎人たちは呆気に取られていた。
何せ目の前の地面に巨大な峡谷が出現したのだ。
それも幅数十メートル、長さ数キロ、深さ数百メートルはありそうな巨大な峡谷だ。
ソレがたった一人の人間の一度の斬撃で刻まれたなど、一体だれが信じるのだろうか。
しかし事実目の前にソレが起こっている。
「それじゃあ向かってくれ。あ、念のため言っておくけど盗んだりしたらただじゃ置かないからな」
凄む新たに背筋を震わせながら彼らは歩いていく。
その隣で再び斬撃が解き放たれた。
再び同じサイズの峡谷が出来上がる。
「うんうん。ここ最近の戦闘で溜まったアレテーを全てカルマの浄化にぶち込んだからか、体の調子がすこぶるいいな」
納得を顔に浮かべながらアラタはひたすら剣を振るっていく。
確かにここは黒鋼の産出量が多い。
おかげで一斬撃ごとに、五百グラムは手に入れられる。
「これは早く済みそうだな」
アラタは呑気にそう考えていた。
□
「全滅……、全て、壊滅……」
レイオールは呆然としていた。
冥楼会への重要な戦力であった全てが木っ端みじんになってしまったのだ。
こうなるのも無理はないだろう。
「ど、どういたしましょうか……」
レイオールインダストリアルの総戦力の内、四十パーセントが壊滅状態。残りの六十パーセントを向かわせたとしても結果は変わらないだろう。
ならばどうするか。
「だったら最終兵器を出してやる!!」
巨大ロボの発進が決定した。
□
「ふう。ようやく十キログラム手に入れられたぜ」
アラタは安堵の息を吐く。
下手したらもう一鉱山襲撃しなくてはならないところだったのだ。
ソレを考えれば、ここで必要量を手に入れることができたのは僥倖であると言えるだろう。
アラタはそう考えながら座り込もうとして。
その極めて優れた感知能力に、超々音速で飛行する物体を感知した。
「何だ?」
大きい。八十メートルはある。
その音は次第に大きくなっていく。
気づいたときにはソレはすでに通り過ぎていた。
そして数瞬後に轟音がやってきた。
きぃぃぃぃぃィィィィぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいんんんンんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんンんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
爆音という形容すら生温い。
聴覚を直接貫通するような衝撃波が彼らの耳を貫いた。
即座にアラタはくそマズい黒林檎を飲み込み、再生現象を開始させる。
あれは敵だ。
本能で分かった。
アラタの生存を脅かしうる。
本物の強敵であると。
「ラスボス戦っていうわけね」
アラタは臨戦態勢に入った。
そんな彼目掛けて。
漆黒の炎が吐き出された。
アラタは地獄に来てから始めて、命の危機を感じ取った。
全力で躱す。
地面を抉るような勢いで彼は躱した。
その彼がいた地面を黒炎が舐めとり、周囲の人々を燃やし尽くす。
否、燃やし尽くすのではない。燃やし続ける。
蘇るたびに燃やし続けるのだ。
「嘘だろ……」
地獄の炎が今、アラタの目の前に顕現していた。
□
「クッソ」
マッハ10を超える速度。
当たれば即死の黒い炎。
そして黒鋼による防護。
全てが逝かれた領域の戦闘能力を作り上げている。
アラタは防戦一方になってしまった。
理由は主に三つ。
まず相手が速すぎること。
相手の速度が速すぎて、攻撃が追い付かないのだ。
次に相手が硬すぎること。
硬すぎて、攻撃を与えてもびくともしないのだ。
最後に飛んでいること。
空を飛ぶアラタも地上戦闘と比べれば不慣れな空中戦を強いられ、回避にしかリソースを回せないということだ。
これらすべての要因はアラタの決定的な劣勢を示していた。
「クッソ。何かいい手はないのか?」
アラタは考える。
そして。
妙案を思いついた。
「これなら、行ける!」
アラタはそう考えるのであった。
□
「ふっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!」
「馬鹿め! この私を舐め腐るからそうなるのだ! 精々逃げ回るがいい!! 最もこの地獄において貴様に逃げ場などないがな!」
ふははははははははははははは!!!!! と笑い声をあげるレイオール。
しかし彼を残酷な運命が待ち受けていることをまだ知らない。
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