第十九話 vs巨大ロボ

 汎用人型決戦兵器 シュバルツカイザー。

 ソレが巨大兵器の名前だった。

 これの動力は黒炎だ。

 無数の人間を動力炉に放り込み、命を燃やす黒炎で、焼いて動力源にしている。その事によって無限にエネルギーを取り出すことができるのだ。

 故に。

 このシュバルツカイザーは無限に動くことができるのだ。


「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」


 レイオールは哄笑する。

 自分の作り上げた圧倒的な武力に。

 そしてそれに蹂躙されるちっぽけな人間に。

 

「踊れ踊れ!」

 

 自らの保有している武力は、やはり地獄において最強のモノだった。

 これならばあの忌々しい冥楼会の連中も簡単に殲滅することができる。

 黒炎を操り、黒炎を防ぎ、黒炎で駆動する。

 この黒き炎の申し子たる、シュバルツカイザーならば。

 

「ファイエル!!!!!!!」


 再度炎を放つ。

 地面を舐めとり、命あるすべてのモノを焼き尽くす。

 未だアラタは捉えることはできていないが、時間の問題だろう。


「燃えろ燃えろ!」


 レイオールは高揚感のままに破壊を繰り返す。

 ひたすらにすべてを破壊していく。

 そんな瞬間のことだった。


「シッ!」


 鋭い呼気と共にアラタが剣を振るう。狙ったのは背後のスラスターの一つ。

 しかし全てが黒鋼で来たシュバルツカイザーを切り裂くことはできない。むしろ攻撃の隙を晒したせいで、アラタの腕は黒炎に巻かれてしまう。その腕をアラタは瞬時に切り落とす。

 黒炎は腕を燃やし続ける。

 即座に腕は黒林檎による死によって再生していく。


 しかしアラタが初めて喰らった明確なダメージだった。


「ははははは、黒林檎に頼るなんておかしなことをしているようだが、お前はまな板の上の鯛だ! じっくりと炙り殺してやるよ!」


 レイオールは哄笑する。

 その声を聴いたわけではないだろう。けれどアラタはニヤリと笑った。

 しかしその笑顔はレイオールには見えていなかった。

 だからこそ、彼は侮ってしまう。

 アラタのことを。

 この地獄で唯一最強たり得る存在のことを。


「アンタにはさほど恨みはないが、死んでもらうぞ」


 再度斬撃が放たれる。狙うは先ほどと同じ背部のスラスターだ。

 しかし結果は同じ。


「無駄なことを!」


 炎が放たれ、今度はアラタの頭部が焼けてしまう。即座に首を切り落として炎から逃れるアラタ。

 ソレを見たレイオールは再度笑みを浮かべる。


「ははは精々のたうち回るがいい! 己の無力さを味わいながらな!」

「そいつはどうかな」


 性懲りもなく再びの斬撃。

 今度も背部のスラスターだ。

 再び笑い飛ばそうとして。違和感に気付いた。

 あまりにも同じ場所過ぎないか? ということに。

 しかし時すでに遅し。

 黒炎も既に見切られ始めていた。

 次の斬撃も背部のスラスターだ。そして今度はアラタは無傷で炎を潜り抜けた。

 

「まさか、コイツ!」

「硬度で負けているんだったら、技量で補えばいい」

 

 アラタは狙っているのだ。

 寸分たがわず背部のスラスターを狙うことで、その破壊を。

 事実、斬撃はミリ単位のズレもなく同じ場所に刻まれている。


「や、やめろ!」

「止めないさ」


 斬撃斬撃斬撃斬撃。

 都合四度の斬撃。

 そしてついに破綻する。 

 黒鋼による鉄壁の防御が破られる。

  

 ザンッ! という音ともに滑らかな断面をスラスターが晒した。

 

「馬鹿なッ!!」


 スラスターを破壊されたシュバルツカイザーは、地面に着地してしまう。飛行能力を失ったのだ。鉄壁の防御力も攻略された。炎も躱される。

 つまり。

 詰みだった。


「後は切り刻むだけだな」

「クッソッ!!!!!」

 

 アラタは剣を構える。

 そして魔力による全力強化を行って、斬撃と解き放った。


「斬駆!」


 斬撃が駆る。

 天地が縦に分かたれる。

 シュバルツカイザーが爆発する。

 黒炎が漏れ出し、大地を爆炎が覆った。

 アラタは即座に回避をした。


「ちょうどいい。このロボの黒鋼ももらっていこう」


 アラタは斬撃を繰り返して手ごろな大きさに黒鋼を切り取って、自分の影に収納した。

 これでガルドに頼まれた素材のうち一つが手に入ったということだ。


「後は黒炎と霊玉だな」


 そう考えて一息ついたときのことだった。

 空から雷光が降り注いだのは。


「何だ!?」


 咄嗟にソレを躱す。

 しかし爆撃はそれだけでは終わらない。

 次々に攻撃が大地に降り注ぐ。

 ソレは巨大な氷柱であったり、黒い火柱であったり、紫色の雷光であったりと非常に多種多様であった。


「くっそ、一体どこから!?」


 アラタは焦る。

 攻撃の出所がまるで皆目見当がつかない。

 上空ということは分かるのだ。しかし上空には何もない。

 あるのは赤い空だけだ。


「何かが隠れているのか?」


 アラタはそう考え、斬撃を空に解き放つ。

 何度でも。何度でも。何度でも。

 いるのであろう敵に向かって何度でも剣を振るった。

 すると次第に赤いだけだった空に赤に歪みが生じてきた。


「あれは……!?」


 斬撃によってそのベールが取り払われた。

 現れたのは、巨大な天空都市だった。


「冥楼会の連中か!」


 アラタは獰猛な笑みを浮かべる。


「向こうから来て切れるとはありがたいことこの上なし! このまま畳み掛ける!」


 アラタは宙へと飛び上がる。

 魔法陣が幾つも見える。

 そしてその魔法陣が煌めくたびに街の一つは消し飛ばせそうな威力の魔術が解き放たれる。

 ソレをアラタは躱す。躱す。

 ことごとくを躱し切って、遂に都市に肉薄する。

 しかし、結界が彼の行く手を阻んだ。

 

「なっ!」


 アラタの目の前に存在している結界の硬度は黒鋼に匹敵した。それは何度も寸分たがわず攻撃し続けなければならないことを意味していた。

 しかしそれは叶わない。

 なぜなら。


「クッソ!」

 

 魔術攻撃が彼を待ち受けているからだ。

 幾つもの魔術攻撃をアラタは喰らって、地面へと落下していく。

 

「今のままじゃ、ダメか……」


 アラタは決意した。魔力を徹底的に鍛えようと。


 

 □



「冷や冷やさせられましたねぇ」

「本当ですわ」


 黒い三角帽子に黒いローブ。

 女たちは口々に会話をしていた。

 

「まさか対空攻撃網を潜り抜けて、結界にまで肉薄してくるとは」

「驚かされましたねェ」

「全くだ。レイオールの連中が急にうちへの防御を怠ったからどうしたものかと観に来てみれば、たった一人の人間にやられていると来た」

「しかしそんな奴が相手であろうと我々の防護は鉄壁を誇っている!」


 口々に、そうだ、その通りだと叫び始める彼ら。

 彼らの名前を冥楼会最高幹部、十二魔女。

 この天空都市を取り仕切る最高権力者たちである。

 

「我々は無敵だ!」

「レイオール無き今、我々こそが地獄の支配者だ!」

「これでようやくあの忌まわしき閻魔への攻撃を行うことができる!」

「目指すは紅の空の頂点、赤天蓋!!」

「さあ、征くぞ! 我らはこの地獄にとどまっているような存在ではないのだ!」


 

 □


「というわけで黒鋼は必要量集まったと思います。後は霊玉と黒炎ですね」

「随分早かったな。まだ三か月もかかっておらんぞ?」

「まあ、そりゃあ速く出たいからですね」

「無茶をするなよ。俺自身も最強の武器を作ってみたいんだ。それにはお前さんの協力が不可欠なんだからな」

「ご心配をおかけしてすいません。でも大丈夫ですよ。それに連中を攻略する目途も立っています」

「ほう。聞いてもいいか?」

「ええ。魔力です。魔力を鍛えまくって連中の攻撃を寄せ付けないレベルにまで戦闘能力を上げるんですよ」

「ははははははははっ! シンプルないい方法だな!」

「何事もシンプルが一番効きますからね」


 アラタはそういうわけで本格的に武者修行をすることにした。

 

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