第十四話 戦車部隊
レイオールへの報告から、時間を少し遡る。
「今回の敵は強敵のようですね」
「ああ。独りで巨人兵団を叩きのめしたらしいからな」
「けれど俺たちなら大丈夫ですよね!」
「新入り、油断は禁物だぞ」
「レイオール会長の新兵器ですよ! 図体がデカいだけの巨人族なんかとは比べ物になりませんよ!」
「それはそうだがな……」
「ビビってんですか? 兵長」
「相手は巨人兵団を殲滅した男だぞ。警戒してしすぎることはない」
「それにしても不思議ですよね。一体何が原因でレイオールインダストリアルを敵に回すんでしょうね」
「何でも女を犯されたかららしい。末端同士のいざこざがここまで波及したそうだ」
「えええ、頭おかしいんじゃないんですか、そいつ」
「地獄なんて大概頭のおかしなやつばかりだろう」
「それでもヤバいっすよ」
若い新兵は続ける。
「そんだけ強けりゃ、このレイオールインダストリアルでだって、相当な地位が約束されているはずだっていうのに、そいつをふいにしちまうようなことをしてるんすよ? それもたかだか女一人だけのために。頭おかしいとしか言いようがないらしいすよ」
「ま、実際おかしいんだろうな。こんな地獄で正義にこだわるような奴なんて、自分の弱さの言い訳にしているだけか。元から正義に狂っているかの二択だからな」
戦車部隊が戦場へと到着する。
ひどい有様だった。
山という山は切り崩され、あちこちに採掘機材の残骸が転がっている。
「ひでえな」
「これをたった一人の人間がやったんすか……」
「みたいだな」
「あ! 人影が見えましたよ!」
「データリンクを開始しろ!」
「……敵です!」
「ならば俺たちがやることはただ一つだ! 狙い撃て!!」
戦車が砲弾を砲身に装填する。
直後に戦車が莫大なエネルギーで、砲弾を解き放つ。
その砲弾は音速を超えてアラタに迫って――。
「は」
「あ」
真っ二つに切り裂かれた。
「嘘だろ……」
「撃てェ!! 撃ちまくれ!!」
ありとあらゆる砲身が彼を向き、砲弾を吐き出し続ける。
この戦車は最新鋭の戦車だった。
レイオールインダストリアルの最先端科学と魔術をつぎ込んで作り上げられた戦車は、全ての戦車が亜音速で行動可能であり、ホバーで移動する。
砲身はレールガンであり、電力を主体にした戦車だった。
「シッ」
有機的な動きで戦車部隊が散開する。
そのまま砲弾が四方八方からアラタを狙う。
そのことごとくをアラタは叩き斬る。
「化け物が! とにかく撃ちまくれ! 防御を取らなければならない以上、クリーンヒットすれば必ず相手にダメージを与えられるはずだ!」
「了解!」
戦車の砲弾が連続する。
無数の砲火が地獄の荒野を彩り、砲弾が中空を駆ける。
アラタは徐々にその速度に対応し始めていた。
躱し始めたのだ。つまり砲弾の速度を見切り始めたということだ。
「避けられています!」
「避けられないような撃ち方で撃て!」
「簡単に言ってくれるなァ!!」
砲弾が地面につきたち、土煙をあげる。
時に爆炎をまき散らし、時に強酸を、時に冷気を、時に雷撃を、様々な属性がアラタの肉体を絡めとらんとする。
しかしそれら全てを魔力を発散させて弾き飛ばす。
「向こうは魔力防御をしているようですね」
「ならば魔力切れまで待てばいい!」
「了解!」
しかしその目論見は始めた。
交戦から半日が経過しても、魔力が切れる様子が無かったのだ。
「一体奴はどれだけ莫大な魔力量を持っているんだ!?」
「分かりません! ですが感知器に反応する魔力はそれほど大きくありません! けれど……」
「けれど、どうした!?」
「全く減らないんです! 奴の魔力が!」
「馬鹿な! あり得んだろう! そんなこと!」
「ですがそうとしか思えません!」
「一体どんな手品を……!?」
答えはシンプル黒林檎の毒だ。
死に続けることによって魔力すらも全回復しているのだ。
再生現象を利用して、魔力を回復させようなどという狂人はこれまでいなかったため、彼らの反応も無理からぬことだった。
「くっそ、このままでは燃料切れだ!」
「兵長、半分は補給に戻すというのはどうでしょうか!?」
「今奴を押しとどめていられるのは我ら全員で攻撃を加えているからだ! その厚みが少しでも減れば奴は野放しになってしまう!」
戦車部隊は窮地に追い込まれていた。
そしてついに――。
「デルタ七号機の弾薬が切れました!」
「何だと!?」
「あ!? 敵が動きました、狙いは――」
デルタ七号機です、というよりも速く、その戦車は両断された。
「クッソ! 総員撤退! 撤退だ!」
「逃げるんですか!?」
「我々は対冥楼会の貴重な戦力だ。こんなところで消耗はさせられん!」
少ない燃料をアラタから距離をとることに使い始める戦車部隊。
しかしそれは悪手だった。
今までアラタの動きを封じていることができたのは、戦車たちで取り囲んで四方八方から攻撃を加えていたからだ。
ソレを逃げることによって一方向からの攻撃のみにしてしまえば――。
「敵加速!」
「デルタ四号機、二号機、大破!」
当然、アラタは自由になってしまうわけだ。
「クッソ!」
「次々と味方撃破されていきます!」
「生き残ることを最優先にしろ!」
それでもなお、彼らが全滅するまでにソレほど時間はかからなかった。
□
「ふう、ふう」
アラタは息を荒げていた。
既にリュドウを殺されたことに対する怒りは収まっている。
しかしすでにレイオールインダストリアルは完全に敵に回してしまった。
こうなったら、全て根絶やしにするまで戦い続けるしかないだろう。
「まあ、正当防衛だしな」
アラタはそう軽く考えていた。
そんな彼を。
一発の銃弾が貫いた。
「は?」
黒林檎による再生がすぐさまその傷を塞ぐ。
しかし痛いものは痛い。
アラタは即座に臨戦態勢に入る。
「今のは……狙撃か」
彼の知覚能力に敵影は存在していない。
つまり半径二十キロ先からアラタを狙い撃ったということだ。
「とんでもない奴らが来たみたいだな」
アラタは武器を構える。
よくよく考えれば、この先戦い続けるのだろうし、レイオールインダストリアルも冥楼会も潰すつもりだったのだ。
ちょうどいいと言えばちょうどいいだろう。
アラタはそう考えることにした。
「それじゃあ狩りをするとしますか」
アラタは剣を構えた。
直後に数十キロの距離を数秒で詰めた相手が、彼の眼前に現れた。
□
時を少し遡る。
「せ、戦車部隊が全滅だと!」
「はい! どういたしますか!?」
「クッソ! ならばパワードスーツ部隊を出せ!」
「了解いたしました!」
パワードスーツ部隊とは、その字のごとくパワードスーツを身に付けた部隊のことだ。
彼らはアレテーを貯めてカルマを相当に浄化し、高い近接能力を誇っている。それをさらにパワードスーツで強化する、地獄でも屈指の戦闘部隊だ。
彼らは巨人兵団を凌駕する、戦闘巧者たちである。
「お呼びですか、会長」
「廻道アラタという男を殺してきなさい。その首を千切り取ってここに持ってきなさい」
「了解いたしました」
「良いですか全軍で向かうのですよ」
「全軍でですか?」
「ええ。奴は巨人兵団も戦車部隊も撃滅しています。相当な手練れです。貴方方でも倒し切れるか分からないほど」
「了解いたしました。必ずや御用命にはお答えいたします」
彼らはレイオールインダストリアル最高峰の戦闘集団だ。
そんな彼らに油断はない。
何処までも冷徹に敵を葬り去るのみだ。
そして――。
□
数日後。
「パワードスーツ部隊が壊滅いたしました!」
「ハァ!?」
レイオールの眼鏡はずり落ちた。
「この数日間、何をやっていたというのだ!?」
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