第十三話 巨人部隊
「今回の仕事は何だ? 冥楼会の連中か?」
「んなわけないだろう。あの連中に俺たちがのこのこと出て行ったら、黒炎で焼き尽くされるのがオチだ」
「となると他の組か?」
「それもないだろう。他の組はほぼすべてレイオールか冥楼会のどちらかに滅ぼされるか吸収されているよ」
「じゃあ結局俺たちは何をしに行くんだよ」
「何でも反乱者を倒しに行くらしいぞ?」
「反乱者? 反乱軍じゃなくて?」
「そうみたいだ。それもたった一人」
「何だよ、せっかく暴れられると思ったのに」
「踏みつぶすだけで終わっちまいそうだな」
「油断しすぎだぞお前ら。何でも反乱者はたった一人で第八鉱山を壊滅状態に追い込んだらしいぞ?」
「「「「「はははははははははははははははははははははははははははははははははあはははあははっははははあははははははははあはははははあははっははあはあははははっははははっはっははは!!!」」」」」
爆笑をする巨人たち。
「そんなの俺たち一人一人でもできるっつーの!」
「そうだぜ。お前は臆病だなぁ!」
「そうだぜ」「そうだぜ」「そうだぜ」
「馬鹿野郎! 俺たち一人と同等の戦力がいるってことだ。下手したら一人か二人はやられちまうかもしれねえぞ!」
「それこそ心配いらねえだろ俺たちを誰だと思ってるんだ!?」
巨人の一人が歩きながら大声で叫ぶ。
「おれたちゃ無敵の巨人兵団!」
「おれたちゃ無敵の巨人兵団!」
「おれたちゃ無敵の巨人兵団!」
「その拳は山を砕き、その蹴りは谷をつくる!」
「湖を飲み干し、森を喰らい、天に届くぜ」
「「「巨人兵団!」」」
「怖いもの知らずだ巨人兵団!」
「恐れ知らずだ巨人兵団!」
「無敵の軍団、巨人兵団!」
巨人たちは歌う。
「おれたちゃ無敵の巨人兵団!」
「おれたちゃ無敵の巨人兵団!」
「おれたちゃ無敵の巨人兵団!」
「その剣は天を裂き、その槍は地平を穿つ!」
「荒野を寝床に、山を枕に、いびきは千里先にまで響き渡る!」
「「「巨人兵団!」」」
「よく眠るぞ、巨人兵団!」
「よく食べるぞ、巨人兵団!」
「無敵の軍団、巨人兵団!」
巨人たちは笑いながら続ける。
「おれたちゃ無敵の巨人兵団!」
「おれたちゃ無敵の巨人兵団!」
「おれたちゃ無敵の巨人兵団!」
「村を踏みつぶすぜ巨人兵団!」
「街を壊すぜ巨人兵団!」
「都を均すぜ巨人兵団!」
「向かってくる奴は皆殺し!」
「「「「「皆殺し!」」」」」
「逃げる奴は追い殺し!」
「「「「「追い殺し!」」」」」
「それがおれたちゃ無敵の巨人兵団の、地上だろうが地下だろうが変わらぬ心意気だァ!!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」
巨人たちは信じていた。
今回も楽な仕事だと。
終わればたらふく、まあ、うまい飯ではないが飯を食えると。
大量のピールで人間を飼って、お互いに殺し合わせることができると。
そう信じ込んでいた。
それと相対するまでは。
□
空から塔が降ってくる。
巨人のスタンピングだ。
ソレをアラタは超音速で躱す。
そしてすれ違いざまに斬撃を振るう。
足首が切り落とされた。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!????????」
大地が震えるような絶叫を上げる巨人。
そのまま転んだ巨人の体を駆け上がり、剣を思い切り引く。
そしてそのまま心臓目掛けて突き出した。
「がっ!」
短い悲鳴を上げて、巨人は倒れ伏す。
他の巨人たちはソレを見ていきり立つ。
「よくも仲間を!」
「殺せ!」
「ミンチにしてやれ!」
「ぶち殺せ!」
口々に手にした巨大な武器を掲げて、それを振り下ろしてくる。
余波だけ一つの街が消し飛びかねない威力の攻撃だ。
しかしそれをアラタは、斬撃で迎撃する。
そして魔力で全身のばねを強化して、剣を一閃した。
両断。
巨人の一人を襲ったのは、彼らが経験したことのない事象だった。
「アンタらの秒間増加カルマが良く見えるぜ。相当悪いことしてきたんだな」
アラタが呟く。
実際にその通りだった。
巨人兵団は、とある世界において最も恐れられた盗賊集団だ。
その巨体で街を、都市を、国を荒らし、大勢の人々を死なせてきた。
そしてそれは地獄の落ちてからも変わらない。
変わらないと思っていた。
彼が現れるまでは。
「おかげでこっちも遠慮なくやれる」
斬撃が奔る。
巨人の首が落とされる。
斬撃が奔る。
巨人の胴が斜めにずれ堕ちる。
斬撃が奔る。
脳天をかち割られる。
斬撃が奔る。
巨人たちは死に見舞われる。
まるでアラタが指揮棒を振るうように斬撃を放てば、それに躍るように死者が増える。
巨人兵団が絶滅したのはそれからほどなくしてのことだった。
□
「会長! 異常事態です!」
「要件は簡潔に!」
「巨人兵団が全滅しました!」
「はぁ!?」
レイオールが叫ぶ。
巨人兵団は、黒炎を使われさえしなければ、冥楼会の連中を絶滅させ得る強力な手札だった。
ソレが全滅?
「あの大飯ぐらいどもが!! 肝心な時に役に立たん!」
レイオールは眼鏡を地面に叩きつける。
しかしじょうぶな眼鏡は割れることはしなかった。少しもフレームが歪んでいない。
そしてレイオールは落ち着きを取り戻す。
「良いでしょう。ならばこちらは、戦車部隊を出すまでです」
「よろしいのですか? 冥楼会への睨みを利かせているというのに」
「構いません。このまま放置しておく方が問題でしょう」
「かしこまりました。すぐにそのように手配します」
「そうしてください。私はあの子のもとへ参ります」
□
「はあ、何度見ても美しい……」
「動力テスト完了しました。うまく黒炎からエネルギーを抽出できているみたいですね」
「役立たず共を数千人放り込んで燃やすだけで、これだけのエネルギーを抽出できるとは。あなたの給料は上げねばなりませんね」
「ほっほっほっ。そうしてくださるとありがたいですな」
「それにしても今日腹立たしいことがありました。巨人兵団共が壊滅したのです」
「それはソレは。由々しき事態ですな」
「ですが戦車部隊を向かわせました。これで遠距離から一方的に狙い撃てば、相手もいずれ息切れしてしまうでしょう」
「ほほほ。妙案ですな」
「全く、アラタの奴め。無駄な出費をさせてくれる。弾薬だってタダで作られるというわけではないというのに」
「それに関してよいご報告が」
「何ですか?」
「黒炎エンジンのテストが完了しました。うまくいけば黒炎を兵器に転用できるかと」
「ほう! ソレは良い知らせですね! あのイカれた魔女どもに先を行かれているのは業腹でしたが、これでようやく追いつくことができました。ここから先は追い越すだけですね」
そしてそのまま叩き潰してしまいましょう。
そう言ってレイオールはグラスを傾けた。
「会長、異常事態です!」
「何ですか、騒々しい」
「戦車部隊が全滅しました!!」
「ブッ!!!!!!」
思い切りワインを噴き出したレイオールであった。
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