第二十四話 地獄より還り来たる者、最凶につき

 アラタは、目を覚ました。

 そこは、病院の中だった。

 しかしそこは病室ではない。

 霊安室だ。


「あ」


 蘇った。

 遂に現世へと蘇ったのだ!

 

「ああ、ああああああ、ああああああああああああああああ!」


 アラタは安堵から泣きじゃくった。

 その泣き声を聞きつけた医者に驚かれるのは、また別の話である。



 □



「よかった、お兄ちゃん! まさか誤診だったなんて」

「はははは、本当に良かったよ。お前を一人にせずに済んで」

「本当に、心配したんだからね。まさか殺人鬼を追って死にかけるだなんて」


 妹に心配されながら、アラタは頬をかく。

 もう彼の頭上にあるのは地獄の赤い空ではない。

 地球の青い空だ。


「それじゃあ、私学校があるから、お兄ちゃんはおとなしくしていること! いいね!」

「もちろんだ。あ、あとお見舞いの林檎、ありがとうな」

「いいよ。お兄ちゃんの大好物なんだから」


 アラタは妹を見送って、林檎をひと齧りする。

 甘い。そして喉が焼けない。死にもしない。ああ。これが本当の林檎だ。

 アラタはその感慨を覚えながら、そして。


 指先に黒い炎を灯した。


「まさか、地獄で強くなった分はそのまんまだとはな……」


 今の彼ならば、三十秒でこの星を焦土に変えることができるだろう。

 正しく彼は、最凶になったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヘルズ・リターナー ~地獄より還り来たる者、最凶につき~ ポテッ党 @poteto_party

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ