第16話 オデットを踊る資格

 リハーサルが始まった。

 小さな子供たちが童謡で踊る。小学生の『くるみ割り人形』あし笛の踊り、大人クラスの『コッペリア』マズルカ。中学生、高校生の『眠れる森の美女』フロリナ、オーロラ……と続く。

 来客席には子供たちのお母さんもたくさん見に来ている。


 そして、一部の最後『白鳥の湖』パ・ド・トロワ。誰もがすみれに注目していた。しかし、アダージオが始まると稽古場の空気が一変した。


「誰、あの子?」「上手よ」「小学生?」「きれい」

 来客席や大人クラスの人達がざわめき始めた。佐由美も麗子も言葉を失った。


 そして、第一ヴァリエーション、美織みおりの踊りが始まると皆が身を乗り出して見る。

美織みおりさんっていう子らしいわよ」

 踊り終わると稽古場に拍手が渦巻いた。


 最後のコーダでは曲の途中でも美織が出てきたら拍手が起こる。

 踊り終わったときは稽古場中が拍手喝采となった。

 ルベランス(お辞儀)をして舞台袖ぶたいそでに帰るとき、すみれが微笑んでくれたことが何より嬉しかった。


 そして、二部、同級生の佐由美たちが『四羽の白鳥』を踊る。松野からなにか注意されていた。

 すみれのグラン・パ・クラシックから古都ことのオデット。

 すみれの踊りは素晴らしく大きな拍手に包まれた。

 しかし、古都ことの様子が少しおかしかった。

 来客席からは相変わらず拍手が起こっていたが、美織は少し心配になった。


 すみれが美織のところにやってきた。

「あなたオデットの準備しといて」

「え」

「私はオデットの一つ前に踊るから、もしものときは、あなたしかいないでしょ」

「え、いえいえ、他にも、いっぱい先輩がいるじゃないですか」

「今日、一番拍手もらったの誰よ」

「え」


「オデットは、振りが踊れたら、誰でも踊っていいという踊りじゃないのよ。あなたには踊る資格がある」

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