第3話 居場所

 ここは建物に入ってすぐのところに大教室と呼ばれる稽古場がある。一階には大教室以外にも稽古場があり、二階、三階にも大きな稽古場がいくつかある。そして四階には先生たちの部屋がある。

 一般の生徒たちは一階で練習しており、上の階に上がることが許されてなかった。上はバレエ団員の稽古場としか聞かされてなかった。


 バレエ学校は一般レッスン生、バレエ学校のスクール生など、いろいろな生徒が通っている。

 クラスも誰でも受けれるクラス、スクール生のみのクラスと多岐にわたってレッスンスケジュールが組まれている。


 バレエ団員には一定の基準を満たしたスクール生が選ばれる。

 年齢の基準はなく優秀なダンサーは学生でも団員としてバレエ団に所属していた。

 しかし、それは一握りのダンサーで団員のほとんどは大人の人達だった。


 その日も一階の大教室ではたくさんの小学生がレッスンを受けている。生徒たちは近々予定されている発表会に向けて練習していた。

 数人の生徒が話している。

「私、発表会でフロリナ踊るの」

「すごい」

「私と明美ちゃんは『海と真珠』踊るのよ」

「いいね、私は『四羽の白鳥』和美ちゃんと智佐ちゃんは決まってるけど、あと一人」


 壁際で寂しそうに下を向いて座っている美織みおりがいる。

 佐由美が美織を見ていう。

「美織ちゃん、今度の発表会出るの? あなたが踊るとそろわないから一緒に踊るのいやよ。あなた、もし先生に『四羽』って言われたら『踊れません』って言いなさいね。あなたには無理なんだから」


「練習したら踊れるようになるもん」

 美織が下を向いていう。


「無理よ。練習して、できることと、できないことがあるのよ『四羽』は無理よ」

「できるもん」

「できないわよ」


「やめなさい」

 バレエ教師の松野まつのが一部始終を見ていた。

 その後ろに久宝優一くぼうゆういちがいる。優一も見ていたようだ。

「おはようございます」

 生徒たちが挨拶する。


 優一は小さい頃からここに通っていた。

 圧倒的に女性が多いバレエの世界で男性のダンサーは小さい頃から大事にされる。


 松野が美織に話しかける。

「美織さん、おはよう」

「おはようございます」

 小さい声で挨拶する美織。涙を拭きながら立ち上がる。

「振りは他の先生と相談して決めます」


 そして、その日のレッスンが始まった。

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