第4話 いつかオデットを踊りたい

 美織みおりはバレエが大好きだった。両親が舞台を見に来てくれることが嬉しかった。

 美織はずっと家の近くのバレエ教室に通っていたが、家族で東京に引っ越すことになり青山青葉あおやまあおばバレエ学校に通うことになった。

 しかし、彼女はここに馴染めていなかった。


 次の日もレッスンに向かう美織。

 美織に声を掛けてくれる友達もいて、その子が来る日は気が楽だった。

 康子はそんな数少ない友達だった。康子は小さい頃からここに通っている。

「おはよう。美織ちゃん」

「おはよう。康子ちゃん」

 康子に微笑む美織。

「美織ちゃんは発表会、何踊るの?」

「まだ決まってないの」

「一緒に踊れるといいね」

「うん」

「美織ちゃんは何の踊りが好き」

 康子の言葉に美織は少し考えて微笑みながら答える。

「オデット」

「いいね。私はオーロラ」

「いいね」

 そんな会話をしていると、佐由美がやって来た。

「美織ちゃんにオデットなんて無理よ」

「無理じゃないもん」

 美織が下を向きながら言う。

「無理よ。普段のレッスンだってできてないじゃない」

「練習したらできるようになるもん」

「無理よ」

「やめなさいよ。ひどいわよ。佐由美ちゃん」

 康子が割って入る。


 美織をにらむような目で見た佐由美が微笑みながら康子に言う。

「そうだ。康子ちゃん。今度、一緒に『四羽』踊ろうよ」

「え、四羽の白鳥」


「あなた、オデット踊りたいの」

 急に後ろから問いかけられた。

 振り返ると一人の中学生女子が立っていた。隣に久宝優一くぼうゆういちもいる。

 誰? 美織は初めて見る先輩だった。

 周りにいた佐由美や他の生徒が、慌てて一列に並び挨拶した。

「おはようございます」

 康子も挨拶する。美織には状況がわからなかった。


「あなた、オデット踊りたいの」

 もう一度聞かれた。

 美織も小さな声で挨拶した。

「おはようございます」

 その先輩は美織から視線を外さない。

 美織は耐えられなくなり下を向いて小さな声で答える。

「オデット、踊りたいです」


「やめなさい」

 佐由美がさえぎる様に言う。


「あなたには聞いてないわね」

 その先輩は佐由美をにらんで言う。


 そこへバレエ教師の松野がやって来た。

「あら、すみれさん、どうしたの?」


 すみれと呼ばれた先輩は美織を見つめたまま松野に聞く。

「レッスン見学させて頂いていいですか」


「別にいいけど、皆さん始めますよ」

 松野の言葉でいつものようにレッスンが始まった。

 しかし、教室全体に、いつもとまったく違う緊張感が漂っていた。

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