第5話 すみれ

 レッスンを見学すると言いながら、すみれは前の鏡にもたれるようにして文庫本を読んでいる。

 松野も彼女のことは気にせずレッスンをする。


 レッスンに慣れている他の生徒たちに比べ、美織みおりは間違えたり、ついていけないところがある。

 松野が美織に声を掛ける。

「美織さん、落ち着いて踊りなさい」

「はい」

 周りの生徒がクスクス笑う。


 レッスンが終わったところで、すみれが顔をあげる。

 すみれは他の生徒には見向きもせず、まっすぐ美織の前に歩いていき厳しい視線を向ける。


「へたくそ」


 全員に緊張が走った。


 佐由美が慌てて、

「美織さん、まだ、ここのレッスンに慣れてないんです」


「あなたには言ってないわね」

 すみれは、そのまま立ち去ろうとして振り返る。


 手を握りしめる美織。涙がこぼれた。


「悔しいの?」

 すみれが聞く。


 下を向いて頷く美織。悔しさで体が震える。


 美織の顔を覗き込むようにしてすみれが言う。

「美織さんというのね。ついてきなさい」

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