第17話 発表会前日

 発表会前日、劇場入りしてリハーサル。

 その朝、古都ことが体調不良を訴え出演の辞退を申し出た。

 バレエ教師や団員、スタッフが全員集まり、オデットの演目をどうする、という話になった。

 出演者たちも全員心配そうに見守る。

 そのとき、すみれが青葉あおばのもとに歩み寄る。青葉は真剣な表情で聞いていたかと思うと美織みおりのところにやってきた。

「美織さん、あなたオデット踊れるわね」

「え、無理……」

 すみれの方を向くが、すみれは視線を外した。自分で決めなさい、ということだと思った。

 すみれは美織を推してくれたのだ。

 美織は、すみれの方に深々と頭を下げ青葉の方に向き直った。

「踊れます」

 青葉は微笑んで全員の前に立った。


「連絡があります。古都ことさんが体調不良で出演を辞退します。発表会のオデットは京野美織きょうのみおりさんに踊ってもらいます」

 全員からどよめきの声が上がり、同時に大きな拍手が起こった。

 どこからか「頑張って」という声も聞こえた。


 青葉がスタッフに指示する。

「皆さん準備お願いします」

 衣装スタッフが美織のところ走ってきた。

 受付にいたスタッフたちがパンフレットの差し替えに走る。

 アナウンスの担当者にプログラムの変更を伝える。

 オーケストラ指揮者の厚木が美織のところへ曲の確認に来た。


 古都ことが美織のところにやってきた。

「急にごめんね。私の代わり……いえ、あなたのオデットを踊ってね。あなたの実力は、みんな認めてるから」


 そして、信じられないスピードでプログラムが差し替わったパンフレットが出来上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る