第18話 エトワール誕生

 発表会当日。

 美織は劇場前ですみれに会った。

「おはようございます」

「今日はご両親とおばあちゃんは来てくれているの?」

「はい」

「よかった」

 二人で控え室の方に歩いて行く。


 開演

 最初に青葉あおばがプログラムの変更を伝える。

 九条古都くじょうことは大スターだ。彼女が目当ての観客も多い。彼女の代わりに京野美織きょうのみおりがオデットということに客席がどよめいた。

「誰?」

 という声が舞台のそでの美織の耳にも届いた。

 耳を塞ぎたかった。逃げたいと思った。


 その時、佐由美と麗子が声を掛けてくれた。

「私たち美織ちゃんのオデットが見たいわ」

「そうよ。今日のお客さんに見せてあげるのよ」

「佐由美ちゃん、麗子ちゃん」


 客席が静かになり、発表会が始まった。

 たくさんの温かい拍手の中、みんな練習の成果を発揮していく。


 一部の最後、


『白鳥の湖』よりパ・ド・トロワ

京野美織きょうのみおり久宝くぼうすみれ、久宝優一くぼうゆういち


 というアナウンスが流れる。


 アダージオ

 美しく安定した踊り。すみれに注目していた観客たちがざわめき始めた。

「誰、あの子? 上手よ」「あれが京野美織きょうのみおりよ」「オデット踊る子よ」


 第一ヴァリエーションの後、客席中から大きな拍手が響いた。

 そして、コーダでは美織が登場するだけで拍手が起こる。

 踊り終わった後、満場の拍手で第一部が終わった。


「すごいよ。この盛り上がり」

 スタッフの声が聞こえる。


 第二部も温かい拍手に包まれる。

 すみれのグラン・パ・クラシックは観客が注目する演目だった。

 踊り終わり満場の拍手の中、すみれが帰ってくる。

 舞台袖ぶたいそでで緊張する美織にやさしい目線を送る。


『白鳥の湖』よりオデットのヴァリエーション

京野美織きょうのみおり


 美織が舞台に登場する。

 まるで世界から音が消えたように劇場が静まり返る。

 美織に合わせバイオリンの優しい音色。

 オデットのヴァリエーションが始まる。

 劇場にいるすべての人が、その踊りに見入っていた。

 誰ともなく「すごい」と声が漏れた。

 すみれが静かに見守る。

 美織はオデットの表現、すべてのポジション、ポーズ、動きを完璧に踊り切った。

 非の打ちどころのないオデット。

 それは美しい白鳥そのものだった。


 すみれは静かに目を閉じる。


 客席から大きな拍手と歓声が響く。

 ルベランス(お辞儀)をして帰ってきた美織をすみれが抱きしめてくれた。


「エトワールの誕生ね」


 すべての人に祝福され、華やかなグランドフィナーレが始まった。


 Fin

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エトワール1978 KKモントレイユ @kkworld1983

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