第12話 すみれの思い 美織の思い

 美織みおりが三階の稽古場に入ろうとしたとき、扉の開いた教室から声が聞こえてきて立ち止まった。

 青葉あおばとすみれの声だった。


「どう彼女は?」

「彼女は将来プリンシパルになるバレリーナです。今が大事なんです。基礎を徹底的に叩き込んで世界に通用する体をつくる。今が大切なんです。ヴァリエーション(踊り)を踊らせる時間がもったいない」

「どうして、そこまで思えるの」

「頭の大きさ、手足の長さと身長の比率。足の甲、股関節、肩、背中の柔らかさ……彼女は美しい。今は上手に踊れてなくても、練習しだいで、止まっても、動いても、回転しても、空中でも、すべてのポジションが完璧に取れるようになる逸材です。悔しいけど、古都ことさんよりも、私よりも……すごい」


 稽古場の入り口でひざから崩れるように、美織は両手をついて頭を下げた。涙が止まらなかった。


「さっきは、ごめんなさい。私にバレエを教えてください」

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