第13話 バレエ『白鳥の湖』パ・ド・トロワ

「聞いてたの? 今のが私の気持ちだから」

すみれの言葉に頷く美織。


「あなたに振りを渡します」

「え」

「白鳥の湖(第一幕)パ・ド・トロワを発表会で踊ってもらいます」

 言葉を失う美織にすみれが続ける。

「アダージオからコーダまで通します。第一ヴァリエーションは美織。男性ヴァリエーションは優一。第二ヴァリエーションは私が踊ります」

 それを聞いてさらに驚いたが、気持ちを奮い立たせ、深々と頭を下げた。

「頑張ります」

 すみれは頷き微笑んでくれた。


 その日からパ・ド・トロワの練習が始まった。アダージオからヴァリエーション、コーダと凄まじい速さで振りを覚えさせられた。

 すみれが一度踊って見せてくれたあと丁寧に細かいところを教えてくれる。

 美織が驚いたのは、今までなかなか振りが覚えられかった彼女が、初めて振り付けられたパ・ド・トロワをあっという間に覚えられたことだった。

 普段のレッスンでの簡単なアンシェヌマン(バレエの動きを組み合わせた踊り)ですら覚えられなかった彼女がアダージオからコーダまですぐに覚えられた。

 それは明らかに、すみれの振付の上手さにあると思えた。ひとまとめに教える量なのか、その区切りなのか、とにかく頭に、体に入ってくる。

 発表会に間に合わないという不安は一瞬にして消え、その日のうちにすべて覚えることができた。


 すみれのすごさを肌で感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る