第10話 悩み

 発表会が近づいていた。

 毎日同じようなレッスンが続く。ストレッチ、筋トレ、バーレッスン、センターレッスン。

 すみれに習うようになって一度も踊りの練習をしていない。

 同級生たちは発表会に向けて踊りの練習をしている。

 いつも真剣に指導してくれるすみれに、なかなか発表会のことを聞けない美織みおりだったが、このままでは発表会に間に合わないという不安が募っていた。


 そんなある日、思い切って、すみれに聞いてみた。

「私、今度の発表会、何を踊るんですか?」

「え? あなた発表会出るの?」

 思いがけない言葉に動揺した。

「出してもらえないんですか」

 沈黙が流れた。


 美織がうつむきながら涙混じりに言う。

「今度の発表会、お母さんも、お父さんも、おばあちゃんも楽しみにしてるんです。出たいです」


 すみれは何も言わずに美織を見つめている。


「私、すみれさんには感謝してますけどプリマなんて無理です。私は楽しく踊るバレエが好きです。だから、みんなと一緒に下で練習しなきゃ」


 稽古場を出ようとする美織にすみれが声を掛ける。

「あなたの気持ちはわかったわ。残念ね」

「私、下手だから、振り覚えられないんです。そろそろ練習始めなきゃ」

 そう言って稽古場を出て行く美織を見ながら、すみれは考えるようにストレッチを続けた。

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