第1章04話


「す、凄い! これ、回復魔法ヒールってやつなのか?」


 俺は興奮気味にそう訊いた。


「そうですね。でも私のレベルだと、ここまでが限界です。本当はもっと早く綺麗に治せればいいんですけど」


 彼女はそう言って、柔らかい笑顔を浮かべた。


 うわー白人の美少女って初めて間近でみたけど、キュートさがエグいな。


「ところで……その服、よく見せてもらえませんか?」


「えっ? これ?」


 俺はアパートから、スウェットの上下をそのまま着てきた。


 そりゃあ目立つよな。


「ちょっと見せて下さい……え? 凄く滑らかな布なんですね。それに……首や袖の周りが、なんでこんなに伸びるんですか? この布地、どこで売ってるんですか?」


 彼女は目の色を変えて、俺のスウェットパーカーのあちこちを触りまくってきた。


 まあ確かにこの世界には無いものかもしれないが。


「いや、どこって……ちょっと説明できないんだけど」


「私、ティナって言います。お名前お訊きしてもいいですか?」


「ああ、ヤマトっていうんだ」


「ヤマトさん? 変わった名前ですね。どちらから来られたんですか? お仕事は?」


 ティナからの質問攻撃に、俺はたじろぐ。


「どちらからって言われてもね……仕事は今、生活保護を受けてるんだけど」


「セイカツホゴ?」


「ああ、分かんないよな」


 俺はどう答えたものか、頭を悩ませていたが……その時、以前ネットカフェで見た韓国ドラマのことを思い出した。


「あ、実は……少し前に事故に遭って頭を打ってしまってね。それで今までの記憶がないんだよ。どうしても思い出せなくて、困ってるんだ」


 こうしておけば安全じゃないのか?


「えーーっ! それは大変じゃないですか。ちょっとTABタブを見せて下さい」


「タブ? TABって何?」


「TABはTABですよ。これです」


 ティナはそう言うと、エプロンのポケットからクレジットカードサイズのプレートのようなものを取り出して、俺に見せてくれた。


 俺はティナのTABを覗き込むと、こう記載されていた。



 名前:ティナ・クラインシュミット

 職業:縫製職人

 LV:55/100

 スキル・アイテム:【生活魔法全般】【縫製】【初等治癒魔術】【精霊使い】



 あ、これって設定画面に書いてあった奴だな。


 てことは……TABっていうのは身分証明書みたいなものか?


 そんなもん持ってないぞ。


「えっと……持ってないな。失くしちゃったのかも」


 ここは正直に言うしかない。


「えーー!? それこそ治安警備隊の人に見つかったりしたら、大変ですよ。すぐにメントパーラ街役場に行って、再発行してもらわないと」


「そうなの? じゃあその役場へ行ってみるけど……どこにあるのか教えてくれるかな?」


「街役場は……ちょっとわかりにくい所にあるんです。仕方ないですね……一緒に行きましょう」


「え? いいの?」


「ええ。さすがに記憶を無くした人を放っておく訳にはいきませんから」


 

 彼女はそう言うと、俺を連れて店の隣へ向かった。


 どうやらお隣は、飲食店のようだ。


「ロベルト叔父さん! ちょっと街役場へ行ってきますね!」


 ティナは店の外から大声でそう言うと、中からガッチリとした体格の中年男性が出てきた。



「おう、ティナ。街役場に、なにしに行くんだ?」


「この人がTABを失くしちゃったみたいなの」


「そうなのか? なにやってんだよ。どうせ酔っ払って、なくしちまったんじゃないのか?」


 ロベルトという中年男性はそう言いながら、俺に訝しげな視線を送ってきた。


「見慣れねえ顔だな。それになんだ、その珍妙な服装は? お前、どっから来た?」


 ロベルトさんは警戒心100%だったが、ティナがなんとか説明してくれて矛先を収めてくれた。


 このスウェットの上下では、やはりかなり目立つようだ。


 俺はティナの店の服を借りて、それに着替えた。


「あとでゆっくり、この服を見せて下さいね」


 やはりティナは、俺のスウェットパーカーに興味津津のようだった。



 俺はティナに連れられて、この街の役場へ向かった。


 どうやらここは、メントパーラという街らしい。


 15分ほど歩いただろうか。


 なるほど、確かに道が入り組んでいて、わかりにくい。


 

 役場の中に入って、担当部署へティナにもついて来てもらった。


 俺とティナが椅子に座って待っていると、中からふくよかな中年女性が出てきて対応してくれた。


「TABの再発行ですね。それでは……こちらのプレートの上に手を置いて下さい」


 俺はA4サイズぐらいの板の上に、言われたとおり自分の右手を置く。


 どうやらそれで俺のステータスが、わかるようになっているらしい。


「えーっと……ヤマト・フォンマイヤーさん、職業は商人ってことですね。レベルが……ええっ!? レベル……1ですか?」


 ティナも「えっ?」と声を上げて、驚いて俺の顔を見ている。


 係の女性に言われてもう一度プレートの上に手を置いたが、結果は変わらなかった。


「やっぱり機械の故障ではないようですね。ヤマトさん、今までよく生きてこられましたね。レベル1って、1-2歳の子供のレベルですよ」


 係の女性は驚きを通り越して、あきれている様子だった。


 いや実際現実世界でも死にそうになったから、生活保護を受けたんだけどね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る