第1章10話


「すいません、薬草採取のクエストをお願いします」


「はい、わかりました。ではTABを見せてもらえますか?」


 俺はお姉さんにTABを提示する。


「えーっと……ヤマト・フォンマイヤーさんですね。冒険家っと。レベルが……え? 12? レベル12ですか?!」


 やはり……お姉さんはびっくりして、目を大きく見開いている。


 あ、この表情も可愛い。


「えーっと、はい……間違いないと思います。ついこの間まで、レベル1だったんで」


「そ、そんなこと、あるんですかね……ここのギルドでは、特にレベルの制限は設けてないんですけど……でもレベル12で森に入るとか、ほとんど自殺行為ですよ」


「ええ、それも分かってます。ただどうしても薬草を必要としている人がいるんです。もし今日取れなくても、次回のために情報だけでもと思って。危険を感じたら、すぐに引き換えしてきますから」


「いや、でも……うーん……」


 やはりお姉さんは、俺を行かせたくないみたいだ。


 たとえ自己責任とはいえ、そのまま帰らぬ人となったら、やはりギルドとしてはまずいのだろう。


 しかし、どうやらまた俺の【交渉力】スキルがパッシブで発動されていたようだ。


 お姉さんもなんとか折れてくれて、行動範囲を制限するという条件付きで行かせてもらうことになった。


 お姉さんは簡易地図を取り出し、それに線を引いて俺に手渡してくれた。


 「ヤマトさん、いいですか。この線から向こう側には絶対に行ってはいけませんよ。普通にゴブリンとかオークとか出てきますから。命がいくつあっても足りないです」


「わかりました。この線を越えては行かないようにします。ありがとうございます」


 俺はお姉さんにお礼を言って、立ち去ろうとすると……


「あの、ヤマトさん。武器とか防具とかは、お持ちじゃないんですか?」


「え? 武器……ですか? 薬草採取とかでも、必要ですかね?」


「あ、当たり前じゃないですか! 森の中は近場でも、普通に下級魔物は出てきますよ。素手で戦う気ですか?」


「そうなんですね……」


 なんだか帰りたくなってきたな……


「有料になりますけど、一応レンタルがありますよ」


 お姉さんはそう言って、レンタルの武器と防具のリストを見せてくれた。


 俺はロベルトさんからもらった日当から銅貨を払って、適当な長さの剣をレンタルした。



「ヤマトさん。絶対に生きて帰ってきて下さいね。約束ですよ」


「わかりました。なんとか帰ってきます」


 俺は完全に死亡フラグを立てられてしまったが、どうやらギルドのお姉さんは本気で心配してくれているようだった。


 多分同じ黒髪・東洋系の顔立ちの俺に、シンパシーを感じてくれたんだろう。



 俺はギルドを出て、森に入っていく。


 森は木々が生い茂り、昼間だというのに少し薄暗い。


 いかにも魔物が出ますよ、っていう感じだ。



「さてと……薬草はどの辺にあるんだ?」


 この間、ロベルトさんにリンカの葉を見せてもらったので、リンカは見れば分かる。


 でも更に高級品のザレンに至っては、俺も見たことがないからわからない。


「とりあえず初日だしな。まずは情報収集だ」


 俺はお姉さんからもらった地図を頼りに、森のあちこちを探索した。


 リンカは背の低い植物らしく、俺は足元をレンタルの剣で探りながら集中して歩いて行く。


 かれこれ1時間ぐらい歩いただろうか。


 リンカらしき植物は、どこにも見つからない。


 もう少し奥に行ったほうがいいのか?


 幸いなことに、今のところ魔物に出くわすこともなかった。


 

 俺はちょっと迷ったが、地図に書かれている線……お姉さんが「行ってはいけない」と言われた線から、少し中に入ってみることにした。


 まだ魔物に出くわしていないこともあって、それほど恐怖感はなかった。


 いざとなったら、ダッシュで逃げればなんとかなるだろう。


「スライムとかだったら、このレンタルの剣でぶっ叩けばなんとかなるんじゃないか?」


 正直俺は下級魔物という存在を、見てみたい気持ちも少しあったりした。


 当たり前だが、なにしろ今まで目にしたことがないからな。


 

 俺は剣で足元をかき分けながら、リンカをずっと探していた。


「やっぱり簡単には見つからないよな」


 そう思っていたその時……俺の右手の茂みからガサガサっと音が聞こえた。


 

 何かいる! 俺は剣を両手で握り、身構えた。


 

 そして茂みからガサガサと音を立てて出てきたのは……体長1メートルはあるだろうか。


 灰色のでっかい「ダンゴムシ」の様な生き物だ。



 「うわぁーー! でけえ! なんだこれ! キモい! 近寄んな!」


 

 俺は反射的に走って逃げる。


 しかし巨大ダンゴムシは、細い何本もある足をシャカシャカ動かして追っかけてきた。


 ダンゴムシは決して早くはないが、俺の後を確実に追っかけてきている。


 俺も逃げてるばっかりでは能がない。


「ちきしょう! これでも喰らえ!」


 俺は手にした剣で思いっきりダンゴムシを上からぶっ叩いた。


 しかし「ボムッ」とゴムを叩いたような音がしただけで、ダンゴムシはびくともしない。


「このっ!」


 俺は剣で連打する。


 するとダンゴムシは体を丸め、ボール状に変化した。


 こうなると何度連打してもダメージを与えられない。



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