第1章11話


 すると……俺の前からもう一匹ダンゴムシがやって来た。


「うわっ、マジか!」


 慌てて俺は右に逃げようとすると……さらにもう一匹!


 俺は3匹のダンゴムシに囲まれてしまった。


 俺はとっさに近くの木によじ登って逃げることにした。


 さすがに木を登ることはないだろ?


 しかし俺の希望的予測に反し……ダンゴムシはその足を動かしながら、ゆっくりと下から木に登ってきた。


「来るなっ! あっち行け!」


 俺は木の上から剣を振り回して、ダンゴムシを追い払う。


 しかしダンゴムシも諦めない。


 そもそもダンゴムシって肉食なのか?


 俺、食われるの?


 俺は必死に剣で応戦していた。



 その刹那……木にしがみついていた俺のすぐ下にいたダンゴムシが、急に消えて黒い霧になった。


 

 よく見ると……そのダンゴムシのいた所に、矢が刺さっている。


 続いて「スタンッ、スタンッ」という乾いた音が2回響いたと同時に、残りの2匹も黒い霧に変わっていった。


 その2匹の後にも矢が2本刺さっている。


 俺は恐怖のまま木にしがみついたままでいると、向こうの方から足音が聞こえてきた。



「……お主は、何をしておるのだ?」



 木の下から俺を見上げながらそう声をかけてきたのは、巨大な男性だった。


 そして……その風貌に俺は圧倒されていた。


 

 身長は2メートルぐらいだろうか。


 長髪だがグリグリの巻き毛になっている。


 ギョロリとした目玉が、怪物のようだ。


 茶色の革鎧レザーアーマーに背中には矢筒、そして左手に弓と大きな金属盾メタルシールドを持っていた。


 その風貌をひとことで表すなら、「プロレスラー」。



「あ、ありがとう。助かったよ」


 俺は木から降りて、礼を言った。


 こうして前に立つと、マジででけぇ。


 俺の頭2つ分ぐらいデカい。


「お主、ゴダンに追っかけられておったのか? 最下級の魔物だぞ」


「ゴダンっていう魔物だったんだな。いやー俺、森に入るの今日が初めてだったから」


「……見るからに装備も手薄のようだが」


「そうなんだよ。ははは……」


 俺は乾いた笑いしか出てこない。


 そうだ、助けてもらったついでに情報収集だ。


「俺、ヤマト。改めて助けてくれてありがとう」


「拙者はルドルフ・オーゲンキンダー。長いのでルドでいい」


「じゃあルドで」


 ルドは風貌は怪物じみているが、その立ち姿や言葉遣いは……なんとなく日本の「武士」のようなイメージだ。


「その装備から察するに、お主は狩りに来たわけでもなさそうだな」


「そうなんだ。実は薬草を探しにきたんだよ」


「ギルドのクエストか?」


「それもあるんだけど……実は俺の大切な人が、いま病気でね」


 俺は一緒に住んでいる母親のような存在の人が、病気で苦しんでいること。


 薬草の値段が上がりすぎて手に入らないことなど、ルドに詳しく説明した。


「なるほど。ただその症状だと、おそらくリンカでは気休め程度だろう。ザレンと……それから滋養に効くハイフォという薬草がある。この二つの薬草は魔力をもっているので、効き目が圧倒的に違う」


「詳しいんだな、ルド」


「うむ。拙者の家は医者の家系でな。父親も兄も医師をしている」


「うわ、すげーな。ルドは医師にならないのか?」


「拙者はこうして魔物相手に狩りをしている方が、性に合っているのだ。医学の道は、父親と兄に任せている」


 ルドがそこまで話したところで……グゥーーーーっと大きな音がルドのお腹から聞こえてきたた。


「ルド。腹減ってるんだったら、串焼き食べないか?」


「串焼き?」


「ああ。ちょっと待ってろ」


 俺は背負ってきた簡易リュックから、食料を取り出す。


 今朝たくさん串焼きを作ってきた。


 俺は串焼きを取り出し、覚えたての火魔法で温め直す。



「うむ、随分いい匂いがするな。腹が減ってきた」


「これ、美味いんだぜ。」


 俺は温め直した串焼きを1本、ルドに渡した。


 ルドは串から肉と野菜を頬張ると……


「おおっ、これは旨しっ! 肉は表面がカリッと仕上がり、中はふっくらのまま! 香ばしく焼かれた野菜の風味と相まって、いままでに味わったことのないハーモニー! 至福の一品であるぞ!」


 ルドの食レポが始まっていた。


 ルドはあっという間に串焼き1本を平らげた。


「もう1本、食べるか?」


「よいのか?」


 俺はもう1本温め直して手渡すと、ルドはそれもあっという間に食べてしまう。


 もう1本もう1本と……俺が持ってきた串焼きの大半が、ルドの胃袋に収まった。


「すまぬ、ヤマト。お主の分も、拙者が食べてしまったのではないか?」


「気にしないでくれ。俺は家に帰れば、いくらでも作れるし食べられるから」


 実際俺は串焼きを1本しか食べられなかったが、まあ助けてくれたお礼だ。




「ヤマト。拙者はザレンとハイフォの群生地を知っておるぞ」


 大半の串焼きを平らげ、水魔法で水分補給を終えたルドがそんな事を言ってきた。


「なんだって? 本当か?」


「うむ。うちの病院でも薬草が必要だからな。拙者が時折そこへ行って採取しているのだ。もちろん他人には秘匿している」


「そうなんだな……でもそんな大切な所、俺に教えてしまっていいのか?」


「一人分くらいであれば、全く問題ない。ただし、ここから更に奥へ入る。中級魔物も出てくるようなところだ。いずれにせよお主一人で行くには、危険な場所となる」


「なるほど……でもとにかく、今日はルドが一緒に行ってくれれば心強い。頼めるか?」


「わかった。串焼きのお返しだ。案内しよう」


 そう言ってルドは大股で歩き出した。


 俺は慌てて後を追う。

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