第1章12話


 それからルドは歩きながら、森のことや魔物のことをいろいろと教えてくれた。


「あのとき拙者はお主の太刀筋を見ていたのだが……お主、ゴダンを剣でただ闇雲やみくもに叩いておったな」


「そうなんだよ。でも全然手応えがなくってさ」


「『核』の場所を、知らぬのか?」


「核?」


「そうだ。魔物はそれぞれ核を持っている。それを破壊してやれば、魔物は霧となって消えるのだ」


「でも……ゴダンの核って、どこにあるんだ?」


「低位の魔物は大体核の場所は決まっている。ゴダンの核は体の一番後ろのお尻の部分だ。色が変わっているところがある。そこを叩けば、お主でも容易くほふれるぞ」


「そうだったんだ」


「あるいは体に突き刺すことができれば、その振動で核を破壊できる。それに厚い革に覆われた体の上からでも、かなり強い力で叩くことができれば同じように核を破壊できるぞ……ちょとやってみるか?」


 ルドはそう言うと、長い弓の先で草むらをゴソゴソと探りはじめた。


 すると……うわっ! ゴダンが出てきた! 


 ゴダンは足をシャカシャカ動かしながら、ルドの方へ近寄ってきた。


 するとルドは右手に持ちかえていた盾を高々と持ち上げて、そのまま勢いよくゴダンに向かって叩きつけた。


「ふんっっ!」


 盾でぶっ叩かれたゴダンは「バン!」と大きな音を立てて、そのまま霧となって消えた。


「すげーな……完全なパワープレーだ」


「この盾は魔道具だから、そんなに力を必要としない。とはいえ魔物との戦いは、力がものを言うことも多いぞ……そこにも1匹いるな」


 ルドがまた弓で草むらを探ると、ゴダンがもう1匹出てきた。


「ルド! もう出さなくていいから!」


「ヤマト、ゴダンの後ろの方を見てみろ。色が肌色のなっている部分、わかるか?」


「ああ、わかる! わかるけど!」


 よく見ると、ルドの言うとおりゴダンのお尻の部分に一部肌色になっている所がある。


「そこを剣で叩いてみろ」


「え? よし、わかった」


 俺は素早くゴダンの後ろに回って、肌色に色が変わった部分を剣で強く叩いてみる。しかしカキンッと金属を叩いたような音がして、剣が跳ね返されてしまった。


「もう1回!」


「おりゃあ!」


 俺はもう一度剣を振り下ろすと「カシャン!」となにかが割れたような音と共に……ゴダンは黒い霧となって消えた。


「ははっ……やった」


「うむ、そんな感じだ。ところでその剣だが……やけに切れ味が悪いな」


「ああ。これはギルドで借りてきたやつなんだ」


「……ヤマト。お主、無謀なのか死にたいのかどっちだ?」


「一応どっちでもないよ」


 やはり無装備というのは、自殺行為だったんだな。


 次回はなんとか装備をしないと、大変なことになりそうだ。



「ところで……ルドは弓と盾を両方持ってるよな? 邪魔くさいというか……そもそも弓を引く時に重くないか?」


 俺は歩きながら、さっきからツッコミたくてしかたがなかったことを聞いてみる。


 ルドは弓を使う時、左手に盾を持ったまま弓も同時に持っている。


 そんなの、絶対重いよな?


 そもそも俺の知ってる異世界ファンタジーのアーチャーって、中距離攻撃か狙撃手スナイパーのイメージがある。重装備のアーチャーって……聞いたことないぞ。


「まったく重くないぞ。もし重いと感じるようであれば、それは鍛え方が足りんのだ」


 ルドはこともなげに、そう言った。


 いや、どんだけ鍛えてんだよ。


「拙者は弓を得意としているのだが、近距離戦も嫌いではない。ところが……拙者は剣がまったく不得手ふえてでな。仕方ないので、この盾を攻撃にも使用しているのだ」


「へぇー、そうなんだな」


 たしかにルドの筋力であれば、盾を武器として使えるかもしれないけど……いろんな武器の使い方があるもんだな。



 それからまたしばらく、俺たちは森の中を歩いた。


 途中またゴダンや、赤兎レッドラビット、リザードなどの下級魔物が出てきたが、ほとんどルドが捌いてくれた。


 俺はもう特に驚くこともなかったし、自分でもゴダンを1匹退治することができた。


 ルドいわく、下級魔物とはいえ侮ってはいけないらしい。


「奴らは連絡を取って、仲間を呼び寄せるのだ。だから屠るのであれば、できるだけ早くするのが肝要だ」


 なるほど。最初に俺がゴダンに手こずっていたら仲間が来たのは、そういうことだったんだな。



 もうしばらく歩くと、俺たちは少し開けた場所に出てきた。


「着いたぞ。このあたりがザレンの草だ。あっちの川の近くに群生しているのがハイフォだ」


 ルドがそう教えてくれた。


 俺は近くに生えてる草を確認すると……まわりがギザギザで特徴のある葉が群生している。


 どうやらこれが、ザレンの葉らしい。


 そして俺は、ルドが教えてくれたハイフォの葉も見に行く。


 見た目はシダに似た葉だ。そして葉の裏側が、銀色に輝いている。


 いかにも魔力がありそうな植物だ。


「ありがとう、ルド。こんなにたくさん生えているんだな」


「ああ、そうだ。今のところ、他人に荒らされている雰囲気もない。少し多めに持ってかえるがいい」


「助かるよ、ルド。じゃあ遠慮なく」


 俺はザレンとハイフォの葉を集め、手近に生えていたツルを切って紐のように使ってクルクル巻いた。

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