第1章13話


 おそらくこれぐらいあれば、1週間は持つだろう。


 本当はもう少し持って帰りたいのだが……俺はあえて1週間ぐらいの分量を持って変えることにした。


「ヤマト、それだけでよいのか? せっかくだから、もっと持って帰ってもよいぞ」


「いや、あまりたくさん取ってもよくないだろうし。探せばもしかしたら、他の群生地もあるかもしれないしさ」


 俺は一応、そう答えておいた。


 あとは俺の【交渉力】スキルが、どれだけ発揮されるかだ。



 薬草採取が終わると、俺たちはギルドの方へ戻ることにする。


 途中ルドはゴブリンを見つけ、遠距離から見事に弓矢で射抜いた。


 俺は隣で見ていたが、大した腕前だった。


 ルドはゴブリンがドロップした魔石かアイテムを回収しに行った。


 ルドは少し渋い顔をしていたが……おそらく思ったほど価値のあるものがゲットできなかったようだ。



 気がつくと俺たちは、ギルドの近くまで歩いて戻ってきていた。


 ルドのお陰で、なんとか生きて戻ってきたぞ。


 俺はルドに声をかける。


「ルド、頼みがあるんだ」


「なんだ?」


「俺は食堂で働いてるんだけど、今日は定休日だったからこうして森にやってきたんだ。また来週の定休日もここに来ようと思ってる。だから……なんとかまた一緒について来てくれないか?」


「来週も……か?」


 ルドは気乗りのしない声でそう言った。


「もちろんタダとは言わない。今日食べてもらった串焼きを、今度は倍の量をもってくるから。それに他の食べ物も持ってくるよ」


「なにっ? 来週は今日食べた倍量の串焼きを食べることができるのか?」


 よしっ、食いついたぞ。


「それだけじゃない。俺が働いている店は、街でも評判の店なんだよ。店主のロベルトさんに頼んで、もっと旨いものを作ってもらうよ。絶対満足してもらえると思う」


「うーむ……それは魅力的な提案だな」


 ルドはしばらく考えていたが……


「あいわかった。その提案、受け入れることにしよう。ただし薬草採取の途中に、拙者も狩りをするぞ。だから時間がかかるかもしれん。それでもよいか?」


「もちろんだ! ありがとう、ルド」


 やった、交渉成立!


 しかもルドの狩りに付き合うことができるわけだから、俺の経験値だって絶対にあがるだろう。


 願ったり叶ったりだ。



 俺たちが森の入口のところまで戻ってきたところで……


「拙者はもう少し狩りを続けようと思う。ではヤマト、また来週な」


 そういってルドは踵を返し、また森の中に入っていった。


 俺は何度も礼を言って、その背中を見送った。



 ギルドのドアを開け、中に入る。


 受付のお姉さんが、目を見開いて破顔した。



「ヤマトさん! よくぞご無事で。大丈夫でしたか?」


「ええ、ありがとうございます。なんとか帰って来れました。一緒に森へ入ってくれた仲間がいたので」


 受付のお姉さんが喜んでくれているのを見て、なんだか俺まで嬉しくなった。


「残念ながら薬草は、ギルドに買い上げてもらう分までは採取できませんでした。自分たちが必要な分だけしか取れなかったんです」


「いいんですよ。とにかくヤマトさんが無事戻ってくれただけで、今日は十分です」


 美人のお姉さんにここまで心配してもらえるとは……冒険者、なかなかいい仕事かも。


 その受付の美人のお姉さんは、エレーヌさんという名前らしい。




「エレーヌさん、俺はまた来週来ますから。今度はなんとか武器や防具を見繕ってきます」


「そうですか。じゃあまた来週ですね。ヤマトさん、お待ちしてます」


 笑顔で小さく手を振ってくれたエレーヌさんに見送られながら、俺はギルドを後にした。



 ◆◆◆



 俺は大量の薬草を担ぎながら、意気揚々と家に戻ってきた。


 ちょうど夕食の時間で、俺も腹が減っている。


 串焼きの大半を、ルドに取られちまったからな。


 でも……この成果を考えれば、安いものだ。


「ただいま戻りました」


「おう、おかえり」

「おかえり、ヤマト」

「おかえりなさい、ヤマトさん」


 玄関のドアを開けて入った俺に、ロベルトさんとエルザさん、それにティナの3人の視線が集中する。


「お、おい、ヤマト。お前、それは何だ?」


「薬草です。えーっと……こっちがザレンで、こっちがハイフォって言って、滋養に効く薬草らしいです。一緒に服用すれば、効果がとても高いって言ってました」


「なんだって?!」


 3人は驚いた様子で、俺のところに近づいてきた。


 俺がテーブルに薬草を降ろすと、ロベルトさんは手にとって薬草を確認している。


 エルザさんとティナは、驚いた表情のままだ。


「間違いねぇ。ザレンと……こっちのハイフォっていうのは聞いたことがあるが、見たことはねぇ。それほど高価な薬草だ」


 ロベルトさんはゆっくりと俺の前にやって来た。


 だが……顔が笑っていない。


 するといきなりロベルトさんは、俺の胸ぐらを掴み上げた。


「おいヤマト。お前、これをどっから盗んできた? 確かに薬草は必要だとは言った。でもな、俺は盗んできてくれと頼んだ覚えはねえぞ!」


「ちょっとロベルト! 落ち着いて!」


 エルザさんが俺とロベルトさんの間に割って入る。

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