第1章14話


「落ち着いて下さい、ロベルトさん。これは俺が森に行って、採取してきたんです」


「嘘つけ! 商人は森に入ることはできねえ! ギルドが認めてくれるわけがねえだろ!?」


「それが、認めてくれたんです。俺が事情を説明して、どうしても薬草が必要だからって。だから……俺の今の職業は、冒険者になってます」


 俺はとっさに少しだけ嘘をついた。


【職業偽装】のスキルのことは、黙っておいた方がいいだろう。


 俺はポケットからTABを出すと、それをロベルトさんに見せた。


「……本当だ……職業が冒険者になってる。驚いたな……」


 ロベルトさんが俺のTABを見ながら、唖然としていた。


「じゃあ本当にヤマトが森で採取してきてくれたんだね? そうなんだね?」


 エルザさんは半分泣きそうな声で、そう訊いてきた。


「はい。正真正銘、俺が森から取ってきた薬草ですよ。といっても、一緒に手伝ってくれた仲間にいろいろ助けてもらったんですけど」


「ヤマトさん、凄いです。森の中は、危なくなかったですか?」


「正直初めて見る魔物もいたから、怖かったよ。でもその仲間がいたから、なんとかなったんだ。本当にラッキーだったよ」


 ていうか魔物を見ること自体、初めてだったんだけどな。


「ヤマト……じゃあ本当にヤマトが森で取ってきたんだな? 盗んできたわけじゃねえんだな?」


「はい、本当に俺が森から採取してきたものです」


「そうか……ヤマト、疑って悪かった。ひでえ事、言っちまったな」


「いいんです。疑われても、無理ないですよ。俺の方こそ黙って行ってしまいましたから」


 なんとかロベルトさんも納得してくれたようだ。


「すごい……この薬草、二つも魔力を持ってます」


 薬草を手にとって触っていたティナが、そう口にした。


「ティナ、わかるの?」


「はい、一応【精霊使い】のスキルがあるので……魔力を持っている植物かどうかぐらいはわかります」


「だからべらぼうに高価なんだよ。魔力を持った薬草なんて、うちの経済状態じゃあ絶対に買えねえ。ヤマト……改めて礼を言わせてくれ。ありがとう」


「いえ、俺の方こそ世話になってるばっかりなので。お返しができたのであれば、よかったです」


 これでエルザさんの具合が少しでも良くなってくれればいいのだが。


 とりあえずザレンとハイフォは1週間分は持つはずだ。


 来週ルドにはまた付き合ってもらえる。


 何度か薬草の採取を続けて、エルザさんには良くなってもらおう。


 俺のスキルも上げないといけないし……とりあえずは来週ルドに食べてもらうものを、ロベルトさんと一緒に考えることにしよう。



 ◆◆◆



 俺が採取してきた薬草を、エルザさんは早速服用し始めた。


 どうやって服用するのかと思っていたら、火魔法と風魔法で温風を起こし、葉を乾燥させて細かくすりつぶすらしい。


 3日もすると、エルザさんは見違えるように元気になった。


「まるで自分じゃないみたい。もうびっくりよ。こんなに体が軽いのって、10年ぶり? いや、もっと前かも。本当に魔力のある薬草って、効き目があるのね」


 上機嫌のエルザさんは、俺の前でニコニコ笑顔でそう言った。一日中店の手伝いをしても、全然疲れた様子を見せない。


 ルドの話では、ザレンとハイフォを2ヶ月も飲み続ければ、おそらくエルザさんのような症状はほぼ完治するだろうとのことだった。


 ただしその後も時々疲れがでることがあるので、そのときには都度ハイフォを摂取すればいいらしい。


 いずれにしても、2ヶ月分の薬草は必要になるわけだ。


 その間俺の修行も兼ねて、できたらルドに付き合ってもらいたいのだが……。



 

「ヤマト、本当にありがとな。お陰でエルザはかなり良くなって、店も手伝えるようになってくれた」


「いえ、俺もエルザさんが元気になってくれて嬉しいですよ」


「でも本当にあの薬草の効果って、凄いんですね。魔力を持った薬草が高価だっていうのが、なんだか分かった気がします」


「まったくだ。俺が薬屋で買うとなったら、店を売らなきゃなんねえぐらいの値段だからな。それをヤマトが取ってきてくれたわけだから……本当に感謝しかねえ」


 店での仕事を終えた俺とロベルトさんは、ティナと一緒に家に帰るところだ。


 今日は店がそれほど忙しくなかったので、エルザさんは先に帰って夕食の支度をしてくれている。


 それほどまでに、エルザさんの回復は目覚ましかった。 


「次の定休日にも、俺は森に行ってきます。ああ、そういえば……」


 俺は武器や防具を用意しなきゃいけないことを思い出した。


 でもまあ、ルドがいてくれる。


 最悪またギルドの剣をレンタルすればいいだろう。


「ヤマトさん、どうかしたんですか?」


 ティナが不思議そうに訊いてきた。


「ん? あ、いや……なにかいい武器か防具を探そうかなと思っているんだ。前回ギルドで借りた剣が、オンボロでね。結構危ない思いをしたから」


「そうなんですか? 魔物と対峙して、武器がそんなのだったら……危ないじゃないですか」


「そうなんだけど、一緒にいてくれた友人が前回は助けてくれたからね。でも俺もこれから腕を磨きたいと思ってるから、どこかの段階でいい武器を買いたいなと思ってる」


「武器か……それこそいい武器は、本当に高いぞ。薬草どころじゃねぇ」


「そうでしょうね。だから最初は下級魔物を相手にしながらギルドのクエストをこなして、金を少しづつ貯めようかと思ってます」


「店の給料を上げてやりてえが、うちの店もカツカツだからなぁ」


 俺も店の給料を上げてほしいとは、全く思っていない。


 これだけ世話になってる訳だしな。


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