第1章15話

 

 歩いているうちに、俺は腹が減ってきた。


 今日はエルザさん、なにを作ってくれるのかな……そんなことを考えながら歩いていた。


 隣でティナが、神妙な面持ちで何かを考えているようだったが。

 

 

 ◆◆◆



 そして再び森へ入る日の前夜。


 屋根裏部屋からトイレに行くのに俺が降りていくと……


「あ、ヤマトさん。ちょといいですか?」


 部屋着のティナが、自分の部屋から出てきた。


「やあ、ティナ。最近は、あのスウェットパーカーは着てないの?」


 俺はできれば、スウェット1枚だけを着た「萌え萌えティナ」をもう一度見てみたいのだが……。


「へっ? あ、あれは……足がスースーしますし、恥ずかしいですし……って、そんなことはいいんです!」


 顔を赤くして、ちょい怒のティナは可愛い。


「でもあれ、可愛かったから。俺はもう一度見たいなぁ」


「え? そ、そうなんですか……もう、仕方ないですね……じゃなくて!」


 今日のティナは、「からかうと面白い」モードだった。


「明日また森に入るんですよね。それで……いい武器とかは準備できたんでしょうか?」


「ああ、その話か……いや、明日はまたギルドの剣をレンタルしようと思ってるよ」


「やっぱりそうなんですね……ちょっと待っててもらえますか?」


 そう言ってティナは、また自分の部屋に戻っていった。


 2-3分経っただろうか。ティナは再び部屋から出てきたのだが……



「おおっ」



 ティナは……例のスウェットパーカーに着替えてくれていた。


 下には何も身に着けていなくて、真っ白な素足が眩しい。


 萌え袖も可愛いし……やっぱり下からのアングルが気になる。


 次回この格好で、階段を降りてきてもらおう。



「な、なんで私の足ばっかり見るんですか! 重要なのは、こっちですよ!」


 そう言ってティナは、萌え袖の手に抱えたものを俺の前に突き出した。


 もちろん俺は、それを認識していた。


 それは……見るからにりっぱな武器だった。


 しかもその形は、俺のような日本人に馴染みのある形。


「これは……」


 長さはかなり長い。


 1メートル20センチぐらいだろうか。


 俺が昔使っていた、3尺9寸の竹刀の長さに近い。


 そして……その剣は見事なまでに美しい「り」と言われるカーブを描き、握り手の部分には立派なつばつかを携えている。


 その剣の形は紛れもなく、俺の知っている「日本刀」だった。


「お父さんの形見の剣なんです」


「えっ、そうなんだ。立派な剣だけど……見せてもらってもいい?」


「どうぞ」


 俺はその剣を手に取る。


 その見た目に反し、かなり軽い。


 それでも見るからに、立派な刀であることがわかる。


 そして柄の部分には、装飾の石が施されている。


 表には白っぽい透明な石。


 その裏側には黒っぽい石。


 二つの石がはめ込まれていた。


「その剣は、聖剣なんですよ」


「聖剣?」


「はい。普通の剣としても十分優れた剣なのですが、精霊の加護を受けることによって本来の力を発揮できる剣のことです」


「精霊の……加護……」


「残念ですが、おそらく今のヤマトさんのレベルでは精霊の加護はまだ受けられないと思います。私が精霊使いのスキルをこなせないのと同じです」


「ああ、なるほど」


「それでも普通の剣としても、十分優れているはずです。この間武器屋さんに持っていって、メンテナンスもしてもらいましたから」


「でも……いいの? そんなに大事なものを俺に預けて」


 もしティナがこの日本刀を貸してくれるのであれば、それは凄くありがたいが……


「はい。ヤマトさんは自分が危険を冒してまで、エルザ叔母さんのために薬草を取ってきてくれました。だから……この剣で、今度はヤマトさん自身を守ってほしいんです」


「ティナ……」


「私は……もうこれ以上大事な人を亡くすのは、嫌なんです」


 ティナの目に、薄っすらと膜が張る。


「……わかったよ、ティナ。じゃあ、ありがたくお借りすることにするね」


「そうして下さい。きっとお父さんも、ヤマトさんを守ってくれると思います」


 俺は手にしていた日本刀を、もう一度よく見る。


 さやの部分には、かなり上等な素材が使われている。


 なんの素材なんだろう?


 柄の部分にも細かい装飾で表面加工がされていて、おそらく握った時に滑りにくい構造になっているのだろう。


 剣道経験者の俺としては、まさにうってつけの武器だ。


「これがあれば、俺も少しは安心して森に入ることができるよ。じゃあ俺は……そのスウェットパーカーをティナに預けるね。まあ対等な交換にはなってないけど」


「え? いいんですか?」


「もちろん。あ、そうだ。一つ思い出したことがあるんだ」


「? なんですか?」


「実はそのスウェットパーカーは、全裸の上に着るのが一番着心地が良くなるように設計されているんだ」


「え? そうなんですか? 下着も何も身に着けない、ってことですか?」


「そうそう。そうなんだ」


「そんなことしたら、余計にスースーしちゃいますけど……そもそもヤマトさん、事故で記憶がなかったんじゃないですか? どうしてそんなことだけ、思い出したんですか?」


「えっ? な、なんでだろうね。でもたまたま思い出したんだよ」


「そうなんですね……そ、それじゃあ仕方ないですね。今度全裸の上に着てみるようにします」


「うん。是非試してみて」


 よしっ、あとは階段の上から降りてきてもらうようにお願いするだけだ。


 俺の【交渉力】スキル、地味に使えている気がするぞ。

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