第1章09話
「あ、ヤマトさん。ちょっといいですか?」
俺が屋根裏部屋からトイレに行こうと降りてくると、ちょうどティナが自分の部屋から出てくるところだった。
ティナは俺が預けたスウェットパーカーを着ている。
「このスウェットパーカーっていう服ですけど……本当によくできてます。見れば見るほど不思議なんですよ」
「そ、そうかな」
俺はティナがスウェットパーカーに興味津々だったので、そのまま預けておいていた。
そりゃあこの世界の技術からすると、不思議がいっぱいだろう。
「この首のあたりの縫製とか、フードの周りとか……どうやってるんですかね。そもそもこの服って、どういうときに着るんですか?」
「うーん、基本的に家でくつろぐ時に着る服だね。寝巻き代わりに着たりとか」
「あ、寝巻きとして着ると、随分楽そうですよね」
「うん。男物のサイズのものを、女の子が着ることもあるよ。大きめに着れるでしょ?」
主にカップルで彼のスウェットを彼女が着る、みたいな?
爆発してほしい。
「あ、なるほど。この大きさだったら、下まで隠れますよね。ちょっと待ってて下さい」
ティナはそう言うと、また自分の部屋の中へ入っていった。そして少し経つと、また部屋から出てきたのだが……
「えーっと……ティナ?」
ティナは俺のスウェットパーカーを上に着て、下半身には……何も身につけていないようだ。
細くて真っ白な素足が、めっちゃ眩しい。
おまけに袖が長いから「萌え袖」になっていて……スウェットの長さも微妙だから、角度によってはいろいろと見えそうな感じなのだ。
ひとことで表現するなら「抱きしめたい」だ。
ただでさえ可愛いらしいティナが、萌えキャラとなって俺の前に降臨してきた。
「ちょ、ちょっと思ってたのと違います……足がスースーしますよ」
ティナは頬を赤らめ、スウェットパーカーを下の方に引っ張って足を隠そうとしている。
やっぱり恥ずかしいんだろう。
「あ、えっと……その格好はやっぱり部屋で一人でいる時とか、恋人のを借りて着たりする時かな。あまり部屋の外に出ないほうがいいっていうか」
「こ、恋人? あ、なるほど、そういう……そ、そういうことはもっと早く言って下さいよ!」
「ティナ、どうしたの? 大きな声出さないの。それにヤマトも」
俺たちが話しているところに、エルザさんがトイレから出てきた。
「あらー、ティナ。随分セクシーな格好してるわね。
「そ、そんなんじゃないです!」
「エルザさん、違うんです!」
俺は自分が着てきたスウェットパーカーのことを、エルザさんに説明する。
「ふーん……つまりヤマトはその服を、言葉巧みにティナに着せて視姦してたってことね」
「全然違います。俺の話、聞いてました?」
俺は【交渉力】のスキルを発動させた覚えはないのだが。
あるいは……【交渉力】スキルはパッシブで作動しているってことなのか?
「まあ年頃の男女が同じ屋根の下に住んでるんだから、いろいろあっても不思議じゃないけど……とりあえずもう遅いから、二人とも寝なさい。あ、大丈夫。ロベルトには黙っといてあげるから」
エルザさんはそう言って俺にウインクを投げて、部屋に戻っていった。
「えーっと……じゃあ俺たちも寝ようか?」
「は、はい……そうですね」
ティナはうつむいたまま、そう呟いた。
恥ずかしそうに頬を紅潮させたティナは本当に可愛くて……俺はマジで抱きしめたかった。
◆◆◆
そして今日は、店の定休日。
俺は街のはずれのギルドに向かって歩いて行く。
「いつも買っている薬草は、リンカっていう薬草だ。本当はザレンていう薬草が一番効くらしいんだが、リンカの数倍の値段がする。とてもじゃないが庶民には手が出ねえ」
なんでもザレンという薬草はそれ自身が魔力を持っていて、肺と心臓の病気に抜群の効果を発揮するらしい。
ただその価格ゆえに、一部の高位魔法を施せる医師の手元にしか行き渡らないということだ。
「薬草はリンカ、できればザレン……まあ初日だし難しいかもしれないが、なんとか情報でも掴みたいよな」
そんなことを考えているうちに、俺はギルドの前に着いた。
冒険家らしき人たちが、何人かうろうろしているのが見える。
俺は『設定』を呼び出し、スクリーンから【職業偽装】を選択。
職業を「商人」から「冒険者」に変更した。
「なんとかこれで、行かせてもらえるといいんだけどな」
俺は深呼吸を一つして、ギルドのドアを開けて中に入った。
ギルドの中には受付とカウンター、それからクエストが書かれている大きな掲示板がある。
掲示板を見てみると、いろんなクエストが掲示されていた。
薬草採取はもちろんのこと、
どうやら家族が、死体でもいいから回収してほしいということらしい。
やはり甘い世界ではなさそうだ。
俺は受付のお姉さんに声をかけた。
黒髪のミドルヘア、東洋系の顔立ちの美人のお姉さんだ。
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