第1章07話


「ロベルト叔父さん。うちの屋根裏部屋が空いてるじゃないですか」


「ああ、オレも同じことを思ったんだが……」


 ロベルトさんが、ちょっと言いよどむ。


「ヤマト。うちの屋根裏部屋でよかったら、来るか?」


「えっ? でも……」


「俺とエルザとティナは、今一緒に住んでるんだ。それで、屋根裏部屋なら空いてる」


「いいんですか?」


「ただし! ティナに指一本触れるんじゃねーぞ! 色目を使ったり夜這いをかけたり、風呂場でラッキースケベなんてのはもっての外だ! それが守れるんだったら、泊めてやってもいい」


 それはフラグなのか?


「はい。それは守りますから。泊めてもらえると助かります」


「もう……ロベルト叔父さんは心配し過ぎですよ」


 ティナは笑っている。


「いやいや、ティナ。ヤマトぐらいの年頃の男だったら、もう女とヤることぐらいしか考えてねえからな」


「叔父さんもそうだったんですか?」


「オレ? オレは……いや、まあそういう時期もあったかな。ちょっとエルザの様子を見てくるわ」


 ティナの反撃に、ロベルトさんは退散する。


「なんだか本当の親子みたいだね」


 オレはティナに水を向ける。


「そうですね。私の両親が亡くなってから、叔父さん夫妻と一緒に暮らしてるんです。私にとっては、叔父さんも叔母さんも親代わりですね。すごく可愛がってもらってます」


「ロベルトさんのところには、お子さんはいないの?」


「はい、そうなんです。エルザ叔母さんは昔から病気がちだったから」


 なるほど。だったらロベルトさんとエルザさんにとっても、ティナは本当の娘のように思ってるんだろうな。


 

 しばらくするとロベルトさんがエルザさんを半分抱きかかえるようにして、奥の部屋から出てきた。


 相変わらずエルザさんの顔色は良くない。


 大丈夫だろうか。


 俺たちは4人連れ立って、店を後にした。



「ティナの店は、洋服店なんだね」


「そうなんです。自分で布地を裁断して、作ってるんです」


「ティナの服はデザインが洒落てるからな。街でも人気の店なんだよ」


 ロベルトさんが話を拾う。


「だからお店が終わっても、服を作らないといけなくて。最近なかなか叔父さんのお店を手伝うことができなくて……叔父さん、すいません」


「いいってことよ。ティナが立派に自分の店を持って働いてくれてるんだ。それだけで十分さ」


「そうねぇ。ハンスとソニアにも、今のティナの姿を見せてあげたかったわ」


 エルザさんの言うハンスとソニアっていうのが、ティナの両親だったんだな。


 

 すると突然……俺の頭の中で「ピコン」という電子音が響くと、例のホログラム・スクリーンみたいな物が現れた。



『メッセージ:レベル5を獲得しました』


『メッセージ:スキル【発火イグナイト】を獲得しました』


『メッセージ:スキル【着火ライター】を獲得しました』


『メッセージ:スキル【製水メイク・ウォーター】を獲得しました』



 ちょっと驚いたが……こんな風に通知が来るんだな。


「ロベルトさん。俺、【発火】と【着火】、それと【製水】ができるようになったみたいです」


「……いきなりどうした? なんでそんなことがわかるんだよ?」


「えっ? でも今、メッセージが……」


「メッセージ? なに訳のわからないこと言ってるんだ?」


「えっと……逆に皆さんは、どうやって獲得したスキルを認識するんですか?」


「獲得したスキルはTABに現れるんです。だからTABを見て、『あ、このスキルが獲得できたんだな』ってわかるんですよ」


 ティナがそう教えてくれた。ってことは、このスクリーンは俺だけのスキルみたいなものなんだな。


「そうかそうか。とりあえず明日から魔石に火をつけることはできそうだな。多分【火起こしメイク・ファイヤー】や【流水ウォーターフロー】も、すぐにできるようになる。その調子で頼むぞ、ヤマト」


「あ、はい。頑張ります」


 俺はロベルトさんにそう答えた。


 おそらくこんな感じで、生活に関するスキルは獲得できていくんだろう。


 

 10分ほど歩くと、ロベルトさんたちの家に着いた。


 2階建ての家で、1階にリビングとダイニングキッチン。


 2階にロベルトさんとエルザさんの部屋、それにティナの部屋があった。


 

 そして2階の廊下の突きあたりに、ハシゴが置いてある。


 それと使って登り、天井の蓋を押し開けると……6畳くらいの屋根裏部屋が出現した。


「あまり使ってないから、ちょっと埃っぽいけどな。まあ我慢してくれ」


「とんでもない。十分ですよ。本当にありがとうございます」


 俺はロベルトさんにお礼を言った。


 公園で野宿とかに比べたら本当に天国だ。


 

 こうして俺の異世界生活は、飲食店での「住み込みバイト」という形で始まった。


 ますます【職業:勇者】の意味がわからなくなってきたぞ……。



 ◆◆◆



 その翌日から、俺の異世界生活は本格的に始まった。


 

 朝起きてから、俺たち4人は一緒に食事をする。


 その後ティナは先に家を出て、洋服屋の店の準備をする。


 

 俺とロベルトさんとエルザさんの3人は、少し遅めに家を出て店で仕込みを始める。


 エルザさんの調子は一進一退で、調子が悪くなると奥の部屋で休んでいる。



 俺もすぐに初期魔法は使えるようになった。


 レベルも10まで上がり、厨房では焼き物も洗い物も今では全部できている。

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