【レベル1の勇者】~現実世界で生活保護を受けていた俺は、異世界で串焼きを焼く。~
たかなしポン太
第1章
第1章01話
「ヤマト! 追加で串焼き3本、お持ち帰りで!」
「あいよー! 串焼き3本、お持ち帰り! 喜んでー!」
魔石燃料が台の下で、炭のように遠赤外線の熱をいい感じに発している。
頭にハチマキを巻いた俺は、追加の串焼きを台の上にセットした。
店の前で串焼きを焼いている俺は、ふと視線を上げる。
中世ヨーロッパの商業都市のような街並み。
石畳の道を通りゆく馬車。
ロココ調のドレスを身に纏う貴婦人に、シルクハットの紳士。
そう、ここは日本ではない。
そして地球でもない。
ここはヒルダン王国の中心都市、メントパーラ。
異世界である。
「ロベルトさん、串焼きはあと残り8本になっちゃいましたよ。また仕込みますか?」
俺は店主のロベルトさんに声をかけた。
ガッチリとした体格、短髪に薄い髭を蓄えた碧眼の中年男性。
俺の雇用主だ。
「え? もうそんなに売れたのか? いやー、今日はもう肉が残ってねえや」
「じゃあ串焼きはこれで終わりですね。ここが終わったら、俺は厨房へ回りますから」
「おう。頼むな、ヤマト。助かる」
俺とロベルトさんがそんな会話をしていると、いつもの馴染みの客が声をかけてくる。
「兄ちゃん、今日も元気いいじゃねーか。おまけに店先からこんないい匂いを出されちゃ、腹が減ってしかたねーぞ」
「あ、いつもありがとうございます! 今日も串焼き、どうですか?」
「おう、そうだな。1本もらうわ。ロベルト! お前んとこ、いい働き手が見つかってよかったじゃねーか」
「おうよ。ヤマトは良く働いてくれるし、この串焼きっていう料理もヤマトのアイデアなんだよ。お陰でいろいろ助かってるわ!」
「助けてもらってるのは、俺の方ですよ。住むところまで用意してもらって……本当、足向けて寝られないです」
俺はひょんなことから、この異世界の地に足を踏み入れることになってしまった。
そして……この異世界の身分証明書である「
【職業:勇者】
◆◆◆
話は2週間ほど前にさかのぼる。
「寺坂さん、こちらの部屋になります」
俺、
「山内さん、ありがとうございます。これでなんとか凍え死ぬ心配をしなくて済みます」
「いえいえ。まあ古い家ですが……公園で寝泊まりするよりはマシですよね」
「本当ですよ。助かりました」
山内さんはホームレスの人や、貧困者を救済するNPO法人の代表だ。
ホームレス生活を余儀なくされていた俺は、1月の寒空に公園でダンボールに包まっていたところを、山内さんに声をかけられ助けてもらった。
山内さんは俺をすぐに自分の事務所に連れて行ってくれて、食事を与えてくれた。
そして生活保護の申請をするように、強く進められた。
生活保護の申請には、NPO法人の職員の人が付き添ってくれた。
役所の人は最初は難色を示していたが、付き添いの職員の人のプッシュのお陰で、なんとか申請は受理された。
そしてこのアパートも、山内さんが用意してくれたところだ。
古い畳の部屋で、風呂なし・和式トイレ付きの1K。
家賃は2万円。
この辺の相場と比較しても、破格の安さである。
「一応電気・ガス・水道も使えるようになってます。それと……布団も一式用意しておきました。なんとか生活はできると思います」
山内さんはそう教えてくれた。
小柄で七三分けのヘア。
黒縁メガネというスタイルに、いつも山内さんの実直さを俺は感じている。
「本当に何から何まですいません。あとは……仕事ですね」
「そうですね。でもとりあえず、ここでの生活に慣れる方が先ですから。焦らず行きましょう」
「はい。山内さん、今後ともよろしくお願いします」
俺は山内さんに、頭を下げた。
そのあと少しだけ世間話をした後、山内さんは帰っていった。
俺は部屋を見回し、小さく嘆息する。
ふとキッチンの方へ目を向けると……テーブルの上に、カップラーメンが2個置かれていた。
おそらく山内さんの差し入れだろう。
「腹減ったな……とりあえず遠慮なく、いただくか」
俺はキッチンへ向かい、やかんに水を入れてガスコンロに火をつけた。
カップラーメンに熱湯を注ぎ、フタの上に割り箸を置く。
「まったく……なんでこんな人生になっちまったんだろうなぁ……」
ボヤいたって仕方がない。
そんなことは分かっていても……自分が生活保護を受けることになるとは、夢にも思っていなかった。
大学を卒業しても、結局正社員としての就職はできなかった。
Fラン大卒で成績も良くなかった。
それでもなんとかなるだろうと、就職活動自体をナメていたのがよくなかった。
なんとか派遣社員として働いていたが、その派遣会社自体が倒産。
給料も一部未払いのままだ。
そして悪いことは重なる。
俺は夜、コンビニからの帰り道で車に跳ねられた。
骨盤を骨折してそのまま入院。
俺を跳ねた車はそのまま逃げてしまって、未だに捕まっていない。
働くこともできず、入院費を払うと貯金は全て無くなった。
家賃も払えなくなり、結局住んでいたアパートも追い出されてしまった。
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