ありがとう。
- ★★★ Excellent!!!
廃線の駅舎。
繁盛していないカフェ。
雰囲気のある舞台設定です。
わたしには、彩度をおとした緑と、枕木に揺れる白い花まで見えました。
それで、すすんでもいい。
そのまますすんで、静やかに時間の色を描写して、やがて日没のように、す、と、物語の幕が降りる。そうであっても、わたしは、このおはなしに上手に這入り込むことができたと思います。
でも、ちがった。
さっきから、上手にことばがでてこなくて。
この感情、ありがとう、ってことばに近いのだけれど。
時間の向こうから、知らない情景の果てから。
思い出して、招んでくれて、ありがとう、って。
招んで、もういちど、命を与えてくれて。
いえ、わたし、登場していません、おはなしに。
でも、そうなんですって。
だれしもの胸にある、もう、かたちの無くなった、物語。
ずっと向こうにおきっぱなしになっていた、大切な記憶。
呼び出して、見せてくれて。
こんな優しい、きれいなおはなしのなかで。
ありがとう、って。
わたしの祖父は、炭鉱のひとでした。