第12話:怪しい依頼
「アクア、アウローラ、アルジェント。ちょっと来ておくれ」
からりと晴れたある日の午後、ふらりと現れたゲイル老が声をかけてきた。三人は珍しくそろっての冬支度の最中で、ひたすら木の実の皮を剥いていた。とはいえアルジェントはアクアが無理やり引っぱってきたのだが。
手のひらに収まるほど小さな黄色の実は、生ではどうしようもないほど渋い。しかし皮を剥いてしわしわになるまで干すと、甘味が出て美味しくなる。
その実が今年は大豊作で、大量にあふれていた。渋すぎて鳥も食べないものだから、採り残した実は落ちて腐ってしまう。加工に手間はかかるが、街で売ればちょっとした収入になると考えたアクアとアウローラは、アルジェントという人手を使って実行に移したのだった。
三人はいったん道具を置いて、ゲイル老の元へと向かった。
「師匠。どうしました?」
「作業しているところすまないな。少し、ややこしい依頼が入ってな」
「ややこしい依頼? なんですか、それ?」
ゲイル老にしては珍しく、口にするのを戸惑っているようだ。もごもごと言いよどみ、ようやく口を開いた。
「それがな……お前さんたち三人を指名なんじゃよ。しかも本部経由の『護衛依頼』だ。ある人物に付いて、旅の道中の護衛をして欲しいそうでな」
アクアとアウローラは目を見合わせた。これまでにもゲイル老の供として依頼に同行することや、マンティコアの時のような緊急時に自分たちが対応することはあった。
簡単な依頼なら個人でも受けている。しかしそれは薬草採取や調薬といった類のもので、「師匠抜きでの護衛依頼」などは初めてだったのだ。
「本部から……ですか?」
「絶対、何か企んでるでしょ」
自分たちが、本部の魔術師たちから「面倒な存在」として認識されている自覚はある。全員が全員、そうだとは思わないが、「できれば居なくなって欲しい」くらいに考えている者もいるのだろう。それを実践しようと企ててきた者も、実のところ、居る。
そういうわけで、ゲイル老もアクアもアウローラも、本部の魔術師たちを手放しに信用できないのだ。
「しかも『旅の道中の護衛』だなんて、あからさますぎません?」
「たしかに、おあつらえ向きの依頼ですよねぇ」
二人の物言いにゲイルは笑ったが、首を振る。
「それがな、お前たち三人を指名したのは正確には『本部』ではないのじゃ。本部に護衛を依頼してきた『依頼主』の方らしい」
「それって……」
「本部が依頼にかこつけて、というわけじゃない?」
「ああ。そうだと思う。なので、どうしたものかと思ってなぁ。相手の意図がはっきりしないことに変わりはないが……」
「その、依頼主は? どなたなんです?」
「それもまだわからんのじゃ。依頼の内容はざっと聞いたが、依頼主については受けるなら明かす、ということだ」
「「余計にあやしい……」」
依頼を受けるか否かは魔術師の采配によるとはいえ、本部を介した依頼をそう簡単に無視するわけにはいかない。『無視できない理由』もある。
三人が唸っていると、アルジェントが口を出した。
「やればいいんじゃないか? 旅の護衛ってことは、邪魔をしてくるヤツを叩きのめせばいいんだろう?こいつらと一緒というのは気に食わないが、大手を振って鬱憤を発散できる。ここでひたすら、ちまちまと木の実の皮をむき続けるより幾分ましだ」
「……確かに、ちょっと発散したくはあるね」
「ええぇ? 私は皮むきのほうがいいなぁ」
「お前たち……」
ゲイル老も、あきれるしかない。そんなどうしようもない理由で、怪しい依頼を受けることは決まったのだった。
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