魔術師の塔と湖の魔女

千賀まさきち

第1話:噂の化け物

「あれが、噂の少年かね」


 数本のろうそくが灯されただけの薄暗い部屋で、二人の老人が話していた。


 二人とも頭からフードをかぶり、子供たちが隠れて内緒話をするかのように、身を寄せ声をひそめている。

問いかけたのは、白い髭をたっぷりとあごに垂らせている老人のほうだ。


「ああ。アールトリマンのバズネット村を壊滅させた化け物だ。おそらく人ではない者の血が混じっているのだろうな。そうでなければ説明のつかない、力の強さだ」


 髪の長いほうの老人が忌々しげに、そして心底困ったように答えた。


「そうか」

「調べてみて、少し解ったことがある」

「ほう。なんだ?」

「一つ、奴には過去の記憶がほとんどない。面倒なことだ。どうやらバズネットの件で、記憶があやふやになっているようだな」

「なるほど?」

「もう一つ。奴は、古代術に耐性と適正がある。それも、かなり強力だ。塔の牢に施されていた封の古代術が、全く役にたたずに壊れてしまった。『そういう種族』の血なのだろう」


 風の強い日だった。


「そうか」

「どうする気だ?」

「そうさなあ……」


 風の音に、老人たちのか細い声はかき消されていった。

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