第23話 お見合い四日目1
お見合い四日目。
朝から猫のディディーと遊んだレティツィアは、昼前に迎えに来た使用人に連れられ、マリアと共に移動した。移動先ではオスカーが待っていた。
本日のレティツィアは、外でゆっくりすると聞いていたので、堅苦しくないゆったりとしたワンピースドレスを着ていた。オスカーも堅苦しくないシャツ姿で、これまた立ち姿も素敵である。やはりイケメンは何を着てもイケメンだと思いつつ、オスカーが手を差し出したのでレティツィアはオスカーの手を握った。
「王宮内を馬車で少し移動します」
オスカーとマリアと一緒に馬車に乗り、湖へ向かった。護衛が二人、馬車の外で馬に乗って付いてきていた。アシュワールドの王宮は、山とは言わないが小高い丘に建っている。王宮内には小さいが川もあるのだ。
目的の湖は、大きくはないが、小さくもない。透き通った水が綺麗で、水草も見える。
馬車から降りたレティツィアとオスカーは、湖の周りを手を繋いで少し歩いた。湖の周りは、歩けるように舗装されている。そして湖の途中まで、足場まである。その足場が途切れる場所まで歩いたレティツィアは、感嘆の声を出した。
「素敵な湖ですね。水面が鏡のようですわ。魚はいるのかしら」
「小魚がいるのは見たことがありますよ。水に足を付けてみますか?」
「いいのですか? ぜひ、水に付けたいです!」
オスカーに支えてもらいながら、マリアに靴を脱がせてもらうと、レティツィアは足場にお尻を置いて足を水に付けた。
「まあ! 水が思ったよりも冷たいですね!」
いつの間にかボトムスのパンツの裾を上げたオスカーが、レティツィアの横に座り足を水に付けた。
「うん、確かに冷たい。ですが、気持ちいいですね」
「はい、気持ちいいです。……足場があるということは、ボートもあるのでしょうか? 見当たりませんが」
「ありますよ。ただ、ここは王宮内でも普段は王族しか入れない場所です。つまり、今は俺しか入らない場所なので、普段は使用しません。だから、ボートは今は出していないのです」
「そうなのですね」
雨風に揺られれば、ボートも劣化してしまう。普段使用しないなら、どこかに格納しているのだろう。
少し他愛のない話をしていたが、オスカーが水から足を上げてタオルで自身の足を拭いて、靴を履いた。
「風邪をひくといけないので、そろそろ上がりましょう」
まだ水に足を付けたままで頷くレティツィアをオスカーは抱き上げた。驚いてしがみ付くレティツィアを抱いたまま、オスカーは足場を出て、木陰にいつのまにかセッティングされていた昼食の場へ近づく。
「マリア、レティツィアの足を拭いてくれ」
「承知しました」
マリアにレティツィアの足をふいてもらうと、オスカーは昼食の場として作られた、芝生のような場所の上に敷いた布の上に、レティツィアを下ろした。そして、オスカーも靴を抜いて、その布の上に足を付ける。
「ここでピクニックをしましょう」
並んで座るレティツィアとオスカーの前には、先に使用人が用意してくれた軽食が並んでいる。パンやパンに塗るディップやジャム、一口大に切られたハムやソーセージやチーズ、そして色とりどりの果物、そしてジュース。
「美味しそうですね。オスカー様、今日はピクニックと聞いて、実は持ってきたものがあるのですけれど、お出ししてもよろしいですか?」
「いいですよ」
レティツィアはマリアに視線を送ると、マリアは頷いてバスケットを持ってきた。そのバスケットからレティツィアは複数の容器を取り出す。
「もしオスカー様が良ければ食べていただこうと思って、わたくしの国から持ってきたものなのです。わたくしが管理しているチェルニという領地がありまして、そこで採れるリリーベリーという果実から作ったものです。こちらがジャム、ジュース、そしてお酒ですわ。とても美味しくて、人気もあるのですよ」
「それは楽しみですね。いただきましょう」
一応、マリアが全て毒見を目の前で行い、オスカーはまずはお酒を一口飲んだ。
「なるほど、これは美味しい。特に女性が好みそうな味ですね」
「はい、おっしゃる通り、女性に人気ですわ。わたくしはお酒は飲めないので、こちらのジュースの方を好んで頂くことが多いです」
レティツィアはジュースを口にする。うん、いつものように美味しい。オスカーもジュースを試飲し、それからパンにジャムを付けて食べる。
「このジャムは俺は好きです。甘すぎず、少しの苦味が逆に癖になる」
「それは良かった! もともとリリーベリーは苦味のある果実なのですが、ジャムはわざとその苦味を残したままにしているのです。子供は苦手な子もいるようなのですが、大人には人気で」
褒められて嬉しいレティツィアは、ニコニコと説明する。それを見て、オスカーがくすっと笑った。
「レティツィアは商売上手ですね。俺に売り込みとは。しかし、このジャムは我が国でも売れます。お酒とジュースもね。我が国民たちの好みの味だ」
売り込みだとバレバレだったか、とレティツィアは恥ずかし気にうつむいた。しかしチャンスだと思ったら、昨日からいてもたってもいられなかったのだ。ここは開き直るしかない。
「どこに出しても自慢できる良い商品ですもの。オスカー様に食べていただく機会があれば、ぜひ食べていただこうと狙っていましたわ」
「ははっ、狙っていましたか」
「つ、妻の商売を、夫なら喜んで手助けしてくださるかと」
面白そうに笑ったオスカーは、「その通りですね」と言ってレティツィアの頬を撫でた。じっとレティツィアを見るオスカーの視線がなぜか恥ずかしい。レティツィアは視線をオスカーから外すのだった。
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