第10話 誘拐2

 レティツィアを抱えたロメオが王宮内の部屋に入ると、そろっとレティツィアをソファーに降ろした。レティツィアを包んでいたジャケットを剥がされると、レティツィアは少し落ち着いた顔をロメオに向けた。ロメオはほっとした顔をする。


 ロメオはレティツィアの頬を撫で、マリアを向いた。


「レティを頼む」

「……っ、嫌!」


 マリアではなくレティツィアが返事をする。レティツィアは必至にロメオにしがみ付いた。


「レティ?」

「一人にしないで!」

「……そうだよな、分かった」


 ロメオがレティツィアを抱きしめ返したところで、部屋に誰かが入室してくる。アルノルドだった。


「レティは!?」

「無事です」


 アルノルドはレティツィアの顔を見て、ホッとしつつも悲痛な顔をした。


「レティは俺が見る。ロメオは現場に戻れ」

「はい。レティ、兄上が傍にいてくれるから」


 ロメオの言葉に頷きながら、ロメオが出ていくのを見ていた。そして今度はレティツィアをアルノルドが抱え、場所をアルノルドの執務室へ移動した。


 それから、レティツィアは落ち着くまでソファーに座るアルノルドの膝の上で抱かれたまま、時間が過ぎるのを待った。


 時間が進み、色々と分かってきた。


 まず、ロメオがタイミング良く助けに来てくれたのは、レベッカのお陰だった。お茶会前にエミーリアの乗った馬車をレベッカが見た時に、エミーリアの馬車の中に侍女でもない男が乗っているのを見て不審に思ったらしい。お茶会から帰る時のエミーリアの馬車には男が乗っておらず、嫌な予感がして、兄三人の誰かに念のためレティツィアのところへ行ってもらおうと思ったらしい。そして、レベッカはたまたまロメオに会い、ロメオが来てくれたという。


 エミーリアの馬車の中にいた男は、レティツィアの馬車の御者を脅して殴って気絶させ、御者の服を剥ぎ、御者に成りすましたという。御者は後に怪我しているところを見つかった。命に別状はなく、本当にレティツィアはほっとした。


 御者に成りすました男は、金で雇われている者だった。レティツィアの乗った馬車を王宮外へ連れ出すように指示されたらしい。王宮の途中にいくつかある関門は、馬車のスピードを上げて無理やり通る予定だったらしく、かなり雑な計画だった。


 エミーリアは、なぜ男を連れてきたのか、それは学園で出来た恋の相談相手、つまりプーマ王国の第二王子に頼まれたからだという。代わりに、次兄ロメオとエミーリアが婚約できるように手伝ってもらう予定だったらしい。エミーリア本人は、「次期王になる人の恋の手伝いができるのだから、光栄なこと」と、まったく悪気のない顔で言ったという。


 お茶会の帰り際、エミーリアは『今日帰れたら』とレティツィアに言っていた。今思えば、エミーリアは、レティツィアが帰れない可能性を示唆していたのかもしれない。


 エミーリアの話に上ったので、プーマ王国第二王子に抗議をしたが、第二王子は「頭の悪い女が、俺の名を騙ってホラを吹いたのを信じるのか」と相手にしなかったという。


 確かに、エミーリアが口にした以上の証拠など、何もない。御者に成りすました金で雇われた男も第二王子が雇い主だとは知らなかった。だから、それ以上第二王子を追及することはできなかった。


 しかし、エミーリアは誘拐の片棒を担いだ、ということで、処罰があった。エミーリアは永久的に国内にある修道院に軟禁。それも内密の沙汰だった。というのも、ロメオの婚約者の家族がレティツィアの誘拐を手伝ったなど、外聞が悪いからである。また、半年程空けたら、エミーリアを監督できていなかった父親のメルチ伯爵は、爵位を長男に譲ることも内密に決まった。半年空けるのは、レティツィアの誘拐と結びつけないためである。


 四度目のレティツィアの誘拐未遂は、こうやって過ぎていった。

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