都会での生活に疲れて、過疎化が進む鹿ケ峰村に引っ越してきた宍戸駿。最初のうちは住人たちに警戒されていた宍戸だが、エンジニアの経験を活かして、村の人々のPCトラブルを解決していくうちに、徐々に村の一員として馴染んでいく。しかし、ある日彼の家に『出テイケ』とだけ書かれた手紙が投函され……。
物語序盤では宍戸が村になじんでいく様子がゆっくりと描かれ、なかなか話は動き出さない。しかし、一見落ち着いた村での生活の中にも、「住人の間ですぐに広まる噂話」「祭りの夜に行われる怪しい儀式の存在」「何度も投函される不気味なメッセージ」と村内の不穏な要素は少しずつ積み重なっていく……。そして、ついに訪れた祭りの日、これまで高まっていた緊迫感が一気に爆発するのだが、その展開が「えっ、そういう話になるの!?」と意表をついたものになっているのだ。
作中で描かれる恐怖の内容も決して他人事とは言えない内容で、巧妙に張られた伏線の中に意外な真実が潜む現代的なホラー小説だ。
(「越境する恐怖……」4選/文=柿崎憲)
初めはよくある過疎が進む田舎の村に引っ越してきた若者、宍戸の日常が描かれる。
親切で村の人たちにも馴染み、電子機器の扱いが得意で村人のパソコンの相談を受け感謝される宍戸は、村おこしにも協力し閉鎖的な村の中で自分の居場所を作ってゆく。
そんな平和な日常の中に、ほんの少しだけ影が見え隠れする。
最初は小さな嫌がらせ、そしてそれがだんだんとエスカレートしてゆき………
物語の進行と共に、村の祭りと生贄の儀、徐々にこののどかな村に隠された『異常』さがあらわになってゆく。
そして起こる事件。
本当の被害者は誰?
最後まで読んだ人だけが『トロイの木馬』の本当の意味に気付く。