涙なしでは読めません。

時は昭和初期。第二次世界大戦の火蓋が切って落とされる頃。
日本軍と米軍との凄惨を極める戦闘。日本軍の慢心が招く状況の分析軽視と、その戦力の歴然たる差異とが引き起こす惨状とが、史実に基づいた精力的かつ卓越した筆致で繰り広げられます。
生活物資の搾取に喘ぐ国民。その非情たる日常の描写に、胸が苦しくなるほど締め付けられます。
克明な日付とともに描かれる日々の営みの変化に、その写実的かつ現実的な精緻の至りに、瞠目します。
家族の元へ届けられる訃報と遺留品。
息を呑むような悲嘆に暮れる心情と、涙を乗り越えてもなお、未来へと向かう滲む眼差しとが、今も心を打ちます。
とても涙なしでは読めません。
傑出です。

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